日本で怪談といえば、多くの場合いわゆる幽霊が主人公ということになるであろうが、アラブ世界については、そもそも幽霊に関する報告自体が少ない。しかも、18、19世紀に同地を旅したヨーロッパ人の旅行記や探検記のなかの数少ない記述を見ると、「幽霊(ghost)は知られていない」とか「ふつうの幽霊の概念は存在しない」といったことが書かれていたりする。 ここで「幽霊」という日本語を使ったが、この「幽霊」をどう定義するかはそう簡単ではない。ことにその類似の概念である「妖怪」、「化け物」、「オバケ」等とどこでどのように区別するかは、日本でも柳田國男以来議論されてきた大きな問題である。その柳田は、「幽霊」とその他の「化け物」とを、主に出現する場所と時間によって区別した(『妖怪談義』、1956年刊)。それによると、前者は出現する場所が決まっておらず、これに狙われたらいくら遠くに逃げても追いかけられるが、後者は
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