人間の日常的な活動領域が地球周回軌道上まで拡大するのに伴い、宇宙機の推進薬や軌道上構造物の冷媒として、液体と気体が共存する流れ(気液二相流)を扱う場面が増えつつあります。しかし、地球周回軌道上の低重力環境では、比重差を利用して液体を動かすのが難しく、相対的に影響が大きくなる表面張力を無視できません。このため、「重いものほど下に沈む」という地上での経験を頼りに設計された流体機器は、軌道上で期待された性能を発揮できず、計画通りに運用できない不具合を起こすことがしばしばあります。このような地上とは異なる加速度環境における気液二相流の振る舞いを予測し、思い通りに操る技術のことを、宇宙工学分野では「流体管理」、あるいは宇宙輸送分野に限って「推進薬管理」と呼びます。 極低温上段エンジンの予冷 推進薬管理に関する技術課題の一つに、基幹ロケット(H-IIA)上段エンジン内部で起こる沸騰冷却現象の予測があり