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ブックマーク / user.keio.ac.jp/~rhotta (120)

  • #3454. なぜイングランドにラテン語の地名があまり残らなかったのか?

    昨日の記事「#3453. ノルマン征服がイングランドの地名に与えた影響」 ([2018-10-10-1]) に引き続きイングランド地名の話題.ローマン・ブリテン時代には,当然ながら建設された都市にはラテン名が付けられていた.その代表が「#3440. ローマ軍の残した -chester, -caster, -cester の地名とその分布」 ([2018-09-27-1]) でみたように,-chester を含む都市名だったわけである.しかし,5世紀のアングロサクソンの渡来を受けて,既存のラテン地名の多くが捨て去られ,後世まで残らなかった.これはなぜだろうか. デイヴィスとレヴィット (82--83) は,ローマ人とアングロサクソン人では,ブリテン島にやってきた目的が異なっていた点に注目している. ラテン語の地名は,英語が流入してきた地域では英語の浸透によって消滅した.これまでこれまで述べて

  • #3418. 「チャンネル」と「チャネル」

    現代英語の音韻では,1つの形態素の内部に同じ子音が重なる子音重複 (gemination) はない./pp/, /tt/, /kk/, /ss/, /mm/, /nn/ など,古英語には存在したのだが,初期中英語期にかけて非重子音化 (degemination) が生じ,単子音と重子音の対立が解消された (cf. 「#1284. 短母音+子音の場合には子音字を重ねた上で -ing を付加するという綴字規則」 ([2012-11-01-1]),「#3386. 英語史上の主要な子音変化」 ([2018-08-04-1])) .それ以来,綴字においてこそ諸事情で2重子音字は広く残ったが,発音上は子音重複は消滅したのである.したがって,channel, running の発音はあくまで /ˈʧænəl/, /ˈrʌnɪŋ/ のように /n/ 1つなので注意を要する. これに関して,先日,読売新聞の

  • #3407. 姓が名になるとき

    人名を言語学的に扱う人名学 (anthroponomastics) については,「#1673. 人名の多様性と人名学」 ([2013-11-25-1]) をはじめとして,personal_name の各記事で関連する話題を取り上げてきた. 英語の人名は,個人名としての first name (forename, Christian name, or given name) と家族名としての last name (family name or surname) が区別されるほか,しばしば middle name が付け加えられる. 日語の人名の感覚だと理解しにくい状況として,典型的に last name であるものが first name としても用いられるということがある.例えば,日語では「鈴木」や「小林」という典型的な姓が名として用いられ得る状況を想像することはできないだろうが,英語

  • #3346. ''A is as . . . as B.'' は「A ≧ B」

    若林 (178--83) では,A is as . . . as B. が,英語教育で通常教えられているような「A = B」ではなく,標題のように「A ≧ B」と捉えるべきだと論じている.和訳すれば「A は B と同じくらい?」ではなく「A は B に劣らず?」がよいということになる.そのように解釈したほうが理解しやすいという例文がいろいろと挙がっているので,その解釈を踏まえた拙訳をつけながら引用する. (1) Tom is as tall as Jim. 「トムの背の高さはジムに劣らない.」 (2) Tom is not as tall as Jim. 「トムの背の高さはジムに劣らなくはない(=ジムより背が低い).」 (3) Fred was as brave as any soldier. 「フレッドはどの兵士にも劣らず勇敢だった.」 (4) She works as hard as

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2018/06/25
    たまに聞くし正しいのだろうけどいまいち納得しきれない事項だわ
  • #3323. 「ことばの規範意識は,変動相場制です」

    雑誌『日語学』が,5月号で「世界の標準語と日の共通語」と題する特集号を編んでいる.英語史における標準化 (standardisation) の問題について関心を持っている私にとって,貴重な情報の宝庫である.巻頭はもちろん日語の標準語についての論考なのだが,執筆者の塩田 (21) が,文章の最後で言語の規範について印象的なコメントを残している. ことばの規範意識は,変動相場制です.今の規範がどのあたりにあるのかという「相場観」を養っていくこと,そしてこうしたことについてみんなで議論していくこと〔=「トークバトル」〕が,大切なのかもしれません. 私もブログで英語史の観点から規範主義 (prescriptivism) や規範文法 (prescriptive_grammar) について様々に考えてきたが,言語における規範とは何かという問いを発するときには,とにかく多種多様な立場の人と意見交

  • #3309. なぜ ''input'' は *''imput'' と綴らないのか?

    接頭辞 in- は,原則として後続する基体がどのような音で始まるかによって,デフォルトの in- だけでなく, im (b, m, p の前), il- (l の前), ir- (r の前), i- (g の前)などの異形態をとる.意味としては,接頭辞 in- には「否定」と「中に」の2つが区別されるが,異形態の選択については両方とも同様に振る舞う.それぞれ例を挙げれば,inactive, inconclusive, inspirit; imbalance, immature, immoral, imperil, implode, impossible; illegal, illicit, illogical; irreducible, irregular, irruptive; ignoble, ignominy, ignorant などである. in- の末尾の子音が接続する音によって

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2018/05/19
    "前置詞・副詞としての英語〔本来語〕の in が接頭辞として用いられる場合には,上記のラテン語の接頭辞 in- のように異形態をとることはない"
  • #3294. ''occupy'' は「オカピー」と発音しない

    英語史の授業の学生が提供してくれた話題.study と occupy は綴字の構成が似ているために,後者を「オカピー」と発音している学習者や先生(!)がいたという話しである.思ってもみなかった発音で,英語の綴字と発音の関係について深く考えさせる事例である./ˈɒkjuˌpaɪ/ と読めるほうが変ではないか,という感想にも一理ある. まず,参照ポイントとなった study /ˈstʌdi/ からして,綴字と発音の関係が不規則である.この綴字では <d> が1つのみなので規則的には */ˈst(j)uːdi/ となるはずのところだが,あたかも *studdy と綴ったかのような発音になっている (cf. student /ˈst(j)uːdənt/).実際 <dd> と子音字を重ねた綴字も中英語から見られるが,後に標準となったのは <d> 1つの綴字だった.したがって,occupy についても

  • #3272. 文法化の2つのメカニズム

    文法化 (grammaticalisation) の典型例として,未来を表わす助動詞 be going to の発達がある (cf. 「#417. 文法化とは?」 ([2010-06-18-1]),「#2106.「狭い」文法化と「広い」文法化」 ([2015-02-01-1]),「#2575. 言語変化の一方向性」 ([2016-05-15-1]) ) .この事例を用いて,文法化を含む統語意味論的な変化が,2つの軸に沿って,つまり2つのメカニズムによって発生し,進行することを示したのが,Hopper and Traugott (93) である.2つのメカニズムとは,syntagm, reanalysis, metonymy がタッグを組んで構成するメカニズムと,paradigm, analogy, metaphor からなるメカニズムである.以下の図を参照. ---------------

  • #3175. group thinking と tree thinking

    前 次 hellog英語史ブログ #3175. group thinking と tree thinking[history_of_linguistics][family_tree][methodology][metaphor][metonymy][diachrony][causation][language_change][comparative_linguistics][linguistic_area][contact][borrowing][variation][terminology][how_and_why][abduction] 「#3162. 古因学」 ([2017-12-23-1]) や「#3172. シュライヒャーの系統図的発想はダーウィンからではなく比較文献学から」 ([2018-01-02-1]) で参照してきた三中によれば,人間の行なう物事の分類法は「分類思考」

  • #3061. 誤用と正用という観念の発現について

    ここ数日間,英語史上にもインパクトのあった黒死病 (black_death) について集中的に考えてきた.関連して蔵持著『ペストの文化誌』を読んでいたときに,衛生観念と言語の正誤の観念に似ている側面があることに気づいた. 蔵持 (326) によれば,清潔と不潔という観念が生じたのはルネサンス以降であり,その対立の秩序,すなわち衛生観念が格的に現われたのは18世紀中葉から19世紀初頭だろうという.その議論で,次のように述べている (325) . 象徴人類学者のメアリー・ダグラスによれば,「汚れとは,絶対に唯一かつ孤絶した事象ではありえない.つまり,汚れがあるところには必ず体系が存在するのだ.秩序が不適当な要素の拒否を意味するかぎりにおいて,汚れとは事物の体系的秩序づけと分類との副産物」だという.ありていにいえば,汚れもまた,それが不潔なものとして除去されるには,汚れを忌避すべきものと意味づ

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2017/09/13
    "誤りを誤りと感じるためには,対置される正用に対する感受性が必要である.誤りと正しさは「言語的衛生観念」という秩序のもとで常にペアである"
  • #3016. ''colonel'' の綴字と発音

    (陸軍)大佐を意味する colonel は,この綴字で /ˈkəːnəl/ と発音される.別の単語 kernel (核心)と同じ発音である.l が黙字 (silent_letter) であるばかりか,その前後の母音字も,発音との対応があるのかないのかわからないほどに不規則である.これはなぜだろうか. この単語の英語での初出は1548年のことであり,そのときの綴字は coronell だった.l ではなく r が現われていたのである.これは対応するフランス語からの借用語で,そちらで coronnel, coronel, couronnel などと綴られていたものが,およそそのまま英語に入ってきたことになる.このフランス単語自体はイタリア語からの借用で,イタリア語では colonnello, colonello のように綴られていた.つまり,イタリア語からフランス語へ渡ったときに,最初の流音が

  • #2996. 近代英語期の英文法書とレシピ本の共通点

    Tieken-Boon van Ostade (138) による後期近代英語の概説書を読んでいて,英文法書とレシピに見られる思いも寄らない共通点を教えられた. Between 1500 and 1850, the number of such books [= cooking recipes] increased dramatically, which, interestingly, shows a parallel with the steep rise in the publication of English grammars since the 1760s . . . . Their reading public was also similar: people who desired access to the 'polite' middle classes, and who

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2017/07/10
    どちらも上昇志向の中産階級にとって上品なマナーを身につけるために必要だったとの由
  • #2969. 閉じない quotation marks

    「#1097. quotation marks」 ([2012-04-28-1]) で,英語の引用符の single か double の差について論じた.今回は,引用符の開きと閉じの習慣について歴史をひもといてみよう. 現在の慣習では,引用符を “ で開いたら ” で閉じるというのは自明のように思われる.しかし,前の記事でみたように,来的にこの記号は「ここから引用が始まりますよ」という合図として,欄外に置かれるマークとして出発したのだった.「ここから始まる」と言っておいて「どこそこで終わる」と言わないのは,引用者として無責任のように思われるかもしれないが,これは現代的な思考法なのかもしれない.古くは,閉じの引用符は置かれなかったのである! 書き手にとって,どこで引用が終わるかは明らかだし,読み手もそれで何とかなるだろうと,ある種の鷹揚さを持ち合わせていたかのようだ. 話者が頻繁に交替す

  • #2964. ''calling'' 「天職」

    英語の calling は,格式張ったレジスターで「天職,職業」を意味する.動詞 call の名詞形として,「呼ぶこと」の語義では初期中英語から文証されるが,「天職」の語義は16世紀前半のことである.OED によると,この語義 (8c) での初例は以下の通り. c. A profession devoted to the service of God; an office or position within the church. Hence in extended use: any profession or way of life which a person feels called or destined to pursue. . . . . 1544 R. Tracy Supplycacion to Kynge Henry VIII sig. Bviiiv, As the by

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2017/06/08
    プロ倫がいう Beruf 由来でいいのね
  • #2958. ジャガイモ,アイルランド,英語史

    「#2954. ジャガイモの呼び名いろいろ」 ([2017-05-29-1]) で触れたように,ジャガイモは16世紀中に新大陸から旧大陸へ持ち込まれ,ヨーロッパでは17--18世紀の間に常される穀物として定着していった.17世紀には,ヨーロッパで戦争がなかったのは4年だけといわれるほどの戦乱期であり,なおかつ気候の寒冷化にも見舞われた時期だったため,耕地の荒廃が進み,飢饉が頻発した.根菜に慣れていなかった当時のヨーロッパ人は,最初はジャガイモも気味悪がって受け付けなかったが,飢えをしのぐのに仕方なしと,徐々にこの新しい穀物を受容していった. ヨーロッパ諸国の中で最も早くジャガイモを受け入れたのは,アイルランドだった.アイルランド人に勇気があったというよりは,同地ではそれだけ飢饉が厳しかったということだろう.小麦の育つ肥沃なアイルランド東部の耕地は,17世紀半ばのクロムウェルによる収奪以来

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2017/06/02
    100万もの餓死者を出したモノカルチャーの原因:"英国による土地と作物の厳しい収奪のもと,残された石と岩盤だらけの狭隘な土地でアイルランド国民が生き残るには,ジャガイモ単作という選択しかなかったのだ"
  • #2927. 宗教改革,印刷術,英語の地位の向上

    カーランスキー (230) は,著書『紙の世界史』の第10章「印刷と宗教改革」において,印刷術という最新テクノロジーが宗教改革を駆動したことについて,次のように述べている. 印刷機は宗教改革の申し子だといったほうがよほど真実に近いだろう.宗教改革は宣伝戦略として印刷を利用したはじめての運動だった.宗教改革があったからこそ,印刷はあの時代に,あの場所で発明されたのだ.つまるところ,ヨーロッパ人は印刷機の製造法も,金属の彫り方も,鉛の鋳造も,彫られた像にインクをつけて刷る方法も,ずいぶんまえから知っていて,その気になれば,いつでも可動活字で印刷を始められた.世情の混乱や新しい思想や変化への欲求が沸き返っているドイツで印刷が発明されたのは偶然ではない.プロテスタントの宗教改革運動には,この新しいテクノロジーの可能性を直観的に理解する力があったのだろう.プロテスタントは巧みに印刷機を使いこなした.

  • #2913. 漢字は Chinese character ではなく Chinese spelling と呼ぶべき?

    前 次 hellog英語史ブログ #2913. 漢字は Chinese character ではなく Chinese spelling と呼ぶべき?[grammatology][kanji][alphabet][word][writing][spelling] 高島 (43) による漢字論を読んでいて,漢字という表語文字の一つひとつは,英語などでいうところの綴字に相当するという点で,Chinese character ではなく Chinese spelling と呼ぶ方が適切である,という目の覚めるような指摘にうならされた. 漢字というのは,その一つ一つの字が,日語の「い」とか「ろ」とか,あるいは英語の a とか b とかの字に相当するのではない.漢字の一つ一つの字は,英語の一つ一つの「つづり」(スペリング)に相当するのである.「日」は sun もしくは day に,「月」は moon

  • #2914. 「日本語は畸型的な言語である」

    昨日の記事「#2913. 漢字は Chinese character ではなく Chinese spelling と呼ぶべき?」 ([2017-04-18-1]) で取り上げた高島の漢字論,そして日語論はぶっきらぼうな刺激に満ちている.おもしろい.日語は,文字との付き合い方に注目すれば,すこぶる畸型の言語である,と高島 (243) は明言する.念頭にあるのは「高層」「構想」「抗争」「後送」「広壮」などの同音漢語のことである. 日言語学者はよく,日語はなんら特殊な言語ではない,ごくありふれた言語である,日語に似た言語は地球上にいくらもある,と言う.しかしそれは,名詞の単数複数の別をしめさないとか,賓語のあとに動詞が位置するとかいった,語法上のことがらである.かれらは西洋で生まれた言語学の方法で日語を分析するから,当然文字には着目しない.言語学が着目するのは,音韻と語法と意味であ

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2017/04/19
    同音漢語に関連して
  • #2904. 英語史における Benjamin Franklin の役割

    昨日の記事「#2903. Benjamin Franklin の13徳における drink not to elevation の解釈」 ([2017-04-08-1]) で取り上げたついでに,Benjamin Franklin (1706--90) の英語史上の貢献について紹介する.Franklin はアメリカの啓蒙思想家として数々の偉業を成し遂げてきた人物だが,英語史においても重要な役割を果たしている.2点を指摘しておきたい. 1つは綴字改革者としての顔である.Franklin は若い頃印刷屋に奉公しており,英語の綴字と発音の問題には並々ならぬ関心を寄せていた.綴字改革を志し,1768年には A Scheme for a New Alphabet and a Reformed Mode of Spelling を書いた.これは新文字の導入を含めた表音主義の原理に則った改革案だったが,イギ

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2017/04/10
    綴り字改革の試み,"アメリカにおける英文法教育の事実上の創始者"
  • #992. 強意語と「限界効用逓減の法則」

    [2012-01-12-1], [2012-01-13-1]の記事で,副詞としての very の起源と発達について見てきた.強意の副詞には,very の場合と同様に,来は実質的な語義をもっていたが,それが徐々に失われ,単に程度の激しさを示すだけとなったものが少なくない.awfully, hugely, terribly などがそれである.意味変化の領域では,意味の漂白化 (bleaching) が起こっていると言われる. おもしろいのは,このような強意の副詞がいったん強意の意味を得ると,今度は使い続けれられるうちに,意味の弱化をきたすことが多いことである.ちょうど修辞的な慣用句が使い古されて陳腐になると,来の修辞的効果が弱まるのと同じように,強意語もあまりに頻繁に用いられると来の強意の効果が目減りしてしまうのである. 効果の目減りということになれば,経済用語でいう「限界効用逓減の法則

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2017/04/07
    ”意味の漂白化 (bleaching)” /馴化(じゅんか) - http://kagaku-jiten.com/learning-psychology/habituation.html 意味変化