滋賀県米原市の伊吹山麓の一角にある三島池のほとりに立った。北西から流れてきた雲が消え去ると、雪で頂上付近が白く覆われた雄大な山の姿が眼前に現れた。 標高1377メートル、滋賀最高峰の伊吹山。毎年11~12月には雪化粧し、本格的な冬の到来を県民に告げる。初夏には色とりどりの高山植物が咲き、「花の伊吹」の別名もある名峰が今から100年近く前、とんでもない大雪に見舞われた。 1927(昭和2)年2月14日。伊吹山の山頂は、11メートル82センチの積雪を観測した。日本はもちろん世界の山岳観測史上、歴代1位の記録は現在も破られていない。県彦根測候所(現・彦根地方気象台)が9年後に県内の積雪量をまとめたガリ版刷りの冊子に、その数値が青字で刻まれている。 当時は超音波などを用いた自動計測機器がなかった時代。伊吹山頂にも測候所が置かれ、常駐職員が観測地点に雪尺(約3メートル)と呼ばれる棒状の物差しを継ぎ足