これに加えて、火力発電の大気汚染による呼吸器系疾患で、世界で1年間に数十万人が死亡していると推定され、化石燃料の環境への負荷は原子力よりはるかに大きい。このような機会費用を考えた場合、原子力のリスクが火力より大きいかどうかは自明ではない。福島第一のような40年前の旧式の原子炉の近くで1000年に1度の巨大地震が起こり、予備電源まですべて止まるという不幸なめぐり合わせがもう一度あるとは考えにくいが、それでも死者がゼロだったということは、OECD諸国で見通せる将来に死亡事故が起こる確率はきわめて低いと考えられる。 福島事故で数兆円の賠償が取り沙汰されていることをもって「原発のコストは巨額だ」という向きもあるが、1人も死亡していない事故で数兆円の賠償というのは、過去の災害や事故に比べても過大である。原子力損害賠償法で想定している最悪の事故は数万人が死亡するような事故で、今回のように財産の損害だけ