一晩で30人を手にかけた「大量殺人」 1938年、岡山と鳥取の県境にある山間の村で、深夜のわずか1時間あまりの間にたった一人の若者の手で、30人の老若男女が惨殺された。世にいう“津山三十人殺し(津山事件)”である。 横溝正史の金田一耕助シリーズ『八つ墓村』のモデルになった事件といえばピンとくるだろうか。 徐州陥落に沸く日中戦争のさなかであるにもかかわらず、事件の報は日本中の人々を震撼させ、当時の新聞は一面で事件の詳細を伝え続けた。 しかし犯人は警察に逮捕されることなく、事件直後に近くの山中で自ら命を絶った。このため、事件の詳細は明かされないまま、警察の捜査は中止された。 その後も事件の詳細が不明のままだった最大の理由は、警察の捜査資料をまとめた「津山事件報告書」が、戦後しばらく閲覧できなくなっていたからだ。そのため1970年代から80年代にかけて、松本清張や筑波昭らの著作が事件を伝える主な