警備員に囲まれ、ガラスで覆われた席に座る公判中のアドルフ・アイヒマン=1961年12月11日、エルサレム(イスラエル政府提供・共同) 2022年はナチス・ドイツの親衛隊中佐、アドルフ・アイヒマンの死刑執行から60年という節目の年だった。1961~62年にイスラエルで開かれた裁判では、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)生存者が初めて公の場で経験を語り、その残虐さは衝撃を与えた。 傍聴したユダヤ系哲学者ハンナ・アーレントは「悪の陳腐さ」という表現で組織の命令に服従するだけの役人としてアイヒマンを描き、人口に膾炙した。 だが、イスラエルではむしろ、虐殺の生々しさが国民に伝わり「ホロコーストとは何だったのか」が理解され始めるきっかけとなった点で意味を持つ。ラジオや新聞を通じ多くの市民が実態を知り、ホロコーストは「ユダヤ民族共通の記憶」に昇華した。同時に、政府や軍だけでなく、社会全体が共有するイスラエ