いつにもまして鬱陶しい、ある梅雨の出来事だった。 A男はバスを待っていた。 停留所の看板に付けられた時刻表を、不良が因縁でも付けるかのように睨んでいたが、おもむろに人差し指で17の数字を指し、そこから右へなぞっていった。26へたどり着いてから、再度その数字をトンと叩き、今度はその人差し指を、自分の腕時計へと移し、つぶやいた。 「あと10分…。」 周囲を見渡すA男。鬱蒼とした林の中にアスファルトの1本道が通っている。もう久しく手入れされていないのだろう、白く、でこぼこしている。 かれこれ1時間ほど、こうして時刻をチェックしては周囲を見渡しているが、先程から車はおろか、人っ子一人通らない。 「ホントに時間通り来るのかよ?」 寂しさと不安と焦りとで、つい独り言が口をつく。看板が赤錆でまだら模様になっている様や、その傍らに建てられた古い木造の、風が吹いたら壊れそうな停留所も、A男の猜疑心を煽ってい