筆者が建築保存について取材するようになった1990年代前半、「残すため原形に手を加える」という話はほとんど聞かなかった。保存を求める専門家たちは、「オーセンティシティー(authenticity、真正さ)」を金科玉条のように口にしていた。 当時、保存議論の対象になっていたのは、戦前の様式建築が中心だった。モダニズム建築と違い、機能と形が連動していない。だから、元のデザインに手を入れずに機能を変えることができた。しかし、モダニズム建築は「機能=形」だ。機能に合わないままのデザインは「死」を意味する。 2000年代に入り、オーセンティシティーと並んでよく使われるようになったのが「インテグリティー(integrity)」という言葉だ。正直さ、規範、統合などの意味を持つ。原形に手を加えたとしても、オリジナルの価値が一体的なものとして継承されていれば「あり」、という方向に変化し始めた。 19年からD
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