はじめに 現代の正統派経済学である「新古典派経済学」における基本的仮定は「合理的経済人(ホモ・エコノミカス)」、すなわち人間は自己利益の最大化を目指して、合理的に思考・判断し、それに基づいて行動できるという仮定である。消費者の自己利益最大化モデルは数学的には効用の条件付最大化問題に集約される。ただし、消費者がその条件付最大化問題を実際に解いて行動していると想定する必要はない。実際の行動から、あたかも(as if)消費者がそうした条件付最大化問題を解き、その最適解を実行していると想定できればよい。多くの経済学者はこれまで、こうした想定に対して肯定的であった。 しかし近年、心理学などの成果を取り入れた「行動経済学」や「実験経済学」によって、そうした想定に対する多くの反証(アノマリー)がシステマティックにかつ繰り返し観察されるようになり、新古典派モデルは合理的人間のとるべき行動を示す規範理論に過