大阪の町からほとんど出ることがなかったが、バイクに乗るようになって紀州の山や海岸にもたくさんの人々が暮らしていることを知った。大阪の人間からすれば紀伊半島には山しかないという印象である。町中の暮らしとは違うそこに住む人はどのような暮らしや仕事をしているのか、そういう興味がわく。 ▲熊野川に暮らす集落 中上健次は新宮の出身で、小説の舞台も熊野をおおく選んでいるようで、この本は77年からの半年間、紀州を旅したルポタージュである。 わたしとしては紀州の人たちがどのような仕事や暮らしをしてきたのかに興味をもったのだが、中上健次はそういう話を現地の人に聞き込みながら、問題意識の根本にあるのは部落差別の問題である。わたしはこういう問題にはつっこみたくないと思う。 紀州というのは自然の景色がすばらしい。ほとんど自然がおおう山中や海岸のなかで人々はどのように暮らしてきたのか。わたしにあるのはそういうぼんや