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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (13)

  • 完璧な酔い、剥き出しの知覚 : 中上健次「奇蹟」

    ひさしぶりに、したたかに読った。この体感は非互換、中上健次ならでは。 読むとは酔うこと、読みごこちは、酔いごこち。しかも、水の如き流行りの文芸ではなく、いつまでも微醺の日々が続く、中毒性の高い文学だ。いつまでも酔っていられる、その世界を引きずって生きている感覚。さながら作中の魂が半分わが身にのめりこんでいるかのようなn日酔い。 極道タイチの短く烈しい生涯が紡がれる「物語」として読み始めるが、これが曲者。語り手はこの世に居ないか、意識を喪失しているから。老いたアル中の混濁した意識が作り上げた「語り」にしては、神じみて微に入り細を穿ちすぎている(あぁ、でもラストに至るに菩薩じみてくるから"神視点"は合ってると言えるなぁ)。 タイチの闘いの性は、わたしの肌を粟立て、同時に淫蕩の血をかき立てる。潮騒に鼓動がシンクロするように、語りのうねりはわたしの感能をざわつかせる。輝ける生の盛りに迎える凄惨な死

    完璧な酔い、剥き出しの知覚 : 中上健次「奇蹟」
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    nbqx69 2012/05/29
  • 本好きが選んだハヤカワの170冊

    オススメを持ち寄って、まったりアツく紹介しあう「スゴオフ」、今回のテーマは「ハヤカワ」!これまた楽しく美味しいだけでなく、積読山脈を成長させるスゴい回だった。 午後一時から夜八時、延々7時間のマラソン・オフ会、見てくれこの獲物。 ばかりですまぬ。場の"ふいんき"はやすゆきさんの「早川書房さんシバリスゴオフは直球、変化球アリで「さとし」が大人気の楽しいパーティだった」でどうぞ。 まずはSF、「ハヤカワといえばSF」の通念をあえて外したのか、SFはあるにはあるが、期待したより少なめ。おすすめプレゼンでは、イーガンもホーガンも、ギブスンもレムもないのがちょっと驚き。代わりにブラッドベリやハインライン、クラークが熱く語られる。暫定的結論によると、「幼年期の終わり」はSFオールタイムベスト、「ハイペリオン」はSFのラスボス」になった。「幼年期の終わり」と「ブラッド・ミュージック」はペアで読むと

    本好きが選んだハヤカワの170冊
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    nbqx69 2012/05/15
  • 「V.」はスゴ本

    鼻をつかまれ引きずりまわされる。ジェットコースターに腹ばいに縛り付けられグルグル連れて行かれる(もちろん逝った先で放り出される)、この宙ぶらりんの射出感はキモ良い怖い。 全方位に伸びるエピソードとウンチク、隠喩、韻踏み、奇談と冗談、伝説と神話といかがわしい会話の妙。声と擬音と狂態に、もみくちゃにされ、ふらふらにされ、もうどうにでもしてーと全面降伏する読書。次々と繰り出される挿話を正しい時間軸で再構成するのに一苦労し、多重にめぐらされた人物のつながりを手繰るのに二苦労する。 これがポリフォニーなら分かる。ドストエフスキーのどんがらがっちゃんだ。おのおの言いたいことを一斉にしゃべり散らす「わわゎ~」は、うまくハーモナイズされると、勢いやら心地よさが生まれる。だが、「V.」はソロ演奏のとっかえひっかえがハウリング→ハーモニーに至る。つぎつぎと焦点が切り替わり、話者が代えられ、時を跳躍し、倫理感覚

    「V.」はスゴ本
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    nbqx69 2011/11/16
  • どうせなにもみえない

    写真よりもリアル。諏訪敦絵画作品集。 図書館で一目惚れ、4回借りて取り憑かれた。だから買った。舐めるように見て飽きず、目が広がった。 対象をリアルに写し取るのであれば、それは機械の仕事だ。だが、対象をいかにリアルに近づけるかは、人の仕事だ。諏訪敦は写実を極めるが、実は対象は存在しない。不在の写実って、それだけで矛盾してる。だが、もしそこにあるのなら、そうあるはずだという想像のいちいちを裏付けるように描く。つまり、あるように描く。 ヌードを描くなら、ひじから肩の"しみ"の一つ一つを、乳輪の突起の凹凸を、捩れた陰毛と真っ直ぐなのを一、脱いだばかりの下腹部についた下着跡まで描いてある。貌なら産毛の一、潰れたにきび跡、ファンデーションの微小な輝きの欠片まで見える。死顔の、開き気味になった唇の端がくっつく様子や、薄い皮膚を透かした腱と老斑の乾いている感覚が、さわるようだ。どこまで細かくみ

    どうせなにもみえない
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    nbqx69 2011/11/11
  • こわす読書「ソドムの百二十日」【閲覧注意】: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    この世が始まって以来、最も淫らで穢らわしい物語。 乱読と、うそぶくわりに同ジャンル。気づいたら、似たよなを読んでいる、狭く小さい殻の中。カニは甲羅に似せて穴を掘る。取捨選択でなく、自分の周囲に壁を築く読書趣味なんだから引きこもるのは構わないが、その井戸で世界の中心を叫ぶ愚かしさ。狭窄に気づかない書評からドヤ顔が滲む―――これ全て、わたしのこと。 なので、自分を壊すを選ぶ。殻を砕き、やわらかいエゴを引っ張り出し、押し広げる、自己を拡張する読書。フランツ・カフカは言う、「頭ガツンと殴られるようなじゃなきゃ、読む価値がない」。意図的に手にする劇薬が、わたしの心を抉りだす。 「読まなきゃよかった」「読んだという記憶を消し去りたい」───そんなを劇薬と呼ぶ(劇薬小説、トラウマンガも然り)。期待外れの壁投げ(くだらなくて壁に投げるような)ではない、読んだら気分が悪くなるやつ。ベストは

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    nbqx69 2011/09/21
  • ビブリオバトル@文京区図書館

    行ってきた・見た・勝った。 オススメをプレゼンして、聴衆に「いちばん読みたい一冊」を決めてもらうビブリオバトルに行ってきた(もちろん発表者として)。まったりアツく語り合う「スゴオフ」とは真逆のベクトルだけれども、テーゼは一緒「人を通じてを知ること、を通して人を知る」になる。 バトル形式とはいっても、殺伐感覚は無い。討論やディベートではないそうな。だいたい、話し手も聞き手も「が好き」で共通しているから、未読なら「そんながあったのか!」になるし、既読なら「そう読んだのか!」で和気あいあいとなる。持ち時間は1人5分でプレゼン+質疑応答を2分で1ターン、これを発表者分まわす。一巡したら投票して多数決で「チャンプ」を決める。 今回は文京区図書館で初開催のやつに参加してきた。若者からお年寄りまで、40人くらいの観客に、発表者は7名という構成。普通は大学や大型書店で実施されるので、図書

    ビブリオバトル@文京区図書館
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    nbqx69 2011/06/07
  • 現実を見失う毒書「コルタサル短篇集」

    あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! 『おれはコルタサルの書いた物語の中に没頭していたと思ったらいつのまにか外にいた』 な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 読んでいる自分が把握できなくなる罠に掛かる、しかも見事に。 現実からその向こうへのシフトがあまりに自然かつスムースなので、「行った」ことに気づけない。リアルからギアチェンジしてゆく幻想譚ではなく、ユメとウツツが地続きなことに愕然とする。剣の達人に斬られた人は、斬られたことに気づかないまま絶命するというが、そんな感じ。 ふつうわたしは、「の中の世界」の現実と、「を読んでいる」現実とを分けて考える。両者を隔てているのは、を構成する物理的な紙の表面であったり、わ

    現実を見失う毒書「コルタサル短篇集」
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    nbqx69 2011/04/26
  • ラテンアメリカ十大小説

    垂涎の狩場ガイド、繰るたびに嬉しい悲鳴。 特別意識してなかったにもかかわらず、「これは」というのが結果的にラテンアメリカ圏だったことは、よくある。幻想譚や劇薬小説が「ど真ん中」で、めくるたびハートをワシ掴みされる。自他彼我の垣根をとっぱらう、のめりこむ読書、いや毒書を強制されるのがいいんだ。 そしてこれは、ありそでなかったラテンアメリカ文学のガイドブック。ブラジルを除いたラテンアメリカスペイン語圏を中心に、10人の作家の10作品を選び取る。いくつか読んでいるので目星がつく、どれも珠玉級。 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『エル・アレフ』―――記憶の人、書物の人 アレホ・カルペンティエル『失われた足跡』―――魔術的な時間 ミゲル・アンヘル・アストゥリアス『大統領閣下』―――インディオの神話と独裁者 フリオ・コルタサル『石蹴り』―――夢と無意識 ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』―――物語

    ラテンアメリカ十大小説
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    nbqx69 2011/04/15
  • タイトルは釣り「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」

    タイトルに釣られたものの、じつに愉しい読書だった。 最高峰の知識人ふたりの、書を愛でるウンチクをたっぷり味わう。好きにオススメ。これは、「物語を消費するのが好き」とか、「情報を吸収するのが好き」という意味ではない。消費や吸収なら、アニメやネットでイケるでしょ(「」じゃなくて「画面」でおk)。そうではなく、「を読むのが好きな人」なら、ニヤニヤしながら読むだろう。 書は、ウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールの対談集。「薔薇の名前」「フーコーの振り子」の原作者エーコと、「存在の耐えられない軽さ」「マックス、モン・アムール」の脚を書いたカリエール、どちらも最高の作家であり読者だ。 そんな二人が、「電子書籍を滅ぼすか」について、開始30頁あたりで早々に結論を下す。勢い込んだ読み手には、ひょうし抜けするほどあっさりしてる。 ですから、「電子書籍」が書物を滅ぼすことはないでしょ

    タイトルは釣り「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」
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    nbqx69 2011/02/23
    おもろそう
  • 劇画「家畜人ヤプー2」がパワーアップしてるぞ

    天下の奇書「家畜人ヤプー」のコミック版。 「子どもからエロを隔離せよ!」という怒号(歌声?)でゾーニングが流行ってる。「非実在青少年」とかいう脳みそ花畑な連中がいるが、学級文庫に乱歩や手塚が並んでいるのは知ってるのかね。「火の鳥」や「二十面相」に耽るわが息子は、「芋虫」や「人間椅子」まであと半歩。見てみぬフリはできぬ。書くにせよ、読むにせよ、物語の駆動力は性と死なのだから。 わたしの子ども時代は、もっとオープンだった(だからこんな変態が育ったともいえるw)。「ドーベルマン刑事」はジャンプだったし、「実験人形ダミー・オスカー」にはお世話になった。しかし、セックスもバイオレンスも「こんなものか」とタカくくっていた小僧に、石ノ森章太郎/沼正三「家畜人ヤプー」は強烈すぎた。人間を完全に改造しつくし、便器や家具にしてしまう発想はなかった。いや、この世界の「日人=ヤプー」は「人」ですらないのだから、

    劇画「家畜人ヤプー2」がパワーアップしてるぞ
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    nbqx69 2011/01/07
  • 「逆光」はスゴ本

    辞書並みの上下巻1600頁余から浮上してきたときの、正直な気分。読了までちょうど1ヶ月かかったけれど、この小説世界でずっと暮らしていきたい。死ぬべき人は死んでゆくが、残った人も収束しない。エピソードもガジェットも伏線もドンデンも散らかり放題のび放題(でも!)いくらでもどこまででも転がってゆく広がってゆく破天荒さよ。 ストーリーラインをなぞる無茶はしない。舞台は1900年前後の全世界(北極と南極と地中を含む)。探検と鉄道と搾取と西部と重力と弾圧と復讐と労働組合と無政府主義と飛行船と光学兵器とテロリズムとエロとラヴとラヴクラフトばりの恐怖とエーテルとテスラとシャンバラとデ・ニーロがぴったりの悪党と砂の中のノーチラス号と明日に向かって撃てとブレードランナーと未来世紀ブラジルとデューン・砂の惑星とiPhoneみたいな最終兵器とリーマン予想とどうみてもストライクウィッチーズな少女たち(でもありえない

    「逆光」はスゴ本
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    nbqx69 2010/12/06
  • 祝・復刊「家畜人ヤプー」【18禁・グロ注意】

    わたしのヤプー初体験はこれ。 ある意味「わたし」を決定づけた禁断の一冊。もちろんケも生えていない小僧が、人体改造や汚物愛好、マゾヒズムの洗礼を受けることになる。今なら問題ありまくりだが、当時は「サイボーグ009」の延長で簡単にアクセスできた。あれだ、少年探偵団のノリで「人間椅子」や「芋虫」を読んでしまった衝撃と一緒だね。 白が頂点に君臨し、黒は奴隷、黄色は家畜として養殖・飼育されている未来社会を描いたSFがこれ。ジャパンとは邪蛮(ジャバン、邪悪で野蛮)であり、スウィフトのヤフー(Yahoo)を文字ってヤプー(Yapoo)と称される「日人」の末裔たち。縮小機や染色体手術により、徹底的に改造されたヤプーたちは、器物であり、動力であり、玩具であり、物であり、機械装置にもなる。 人権?ナニソレ?ではなく、最初から「人」ではないのだから権利もへったくれもないという設定が潔い。人種差別という範疇か

    祝・復刊「家畜人ヤプー」【18禁・グロ注意】
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    nbqx69 2010/06/12
  • わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: パワーポイントで遺書

    プロジェクトマネージャのロン・バトラー氏が自殺という悲劇的な結末を選択するに至った経緯を48枚のパワーポイントにまとめていたことが、同僚の証言で火曜日明らかになった。 「ロンが睡眠薬を大量に飲んだと聞いたとき、わたしは衝撃を受けました」同僚のへクターは証言する。「しかし、ロンが最期に残したパワーポイントのプレゼンテーションを見たとき、彼が悲しみや苦痛のあまり自殺という手段をとらざるを得ないことに強く納得させられました」 パワーポイント遺書さよなら.pptは次の4つのセクションに分けられている。 ・現在の状況分析 ・謝罪とお別れのあいさつ ・遺言と葬儀について ・最後に 社長のウィリアムズ・ケネディ氏によれば「さよなら.pptは分かりやすく、簡潔で、かつ説得力があります」という。「スライドショーで見たあと、彼のプレゼンテーションに圧倒されました。彼はマイクロソフト・パワーポイント・アプリケー

    わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: パワーポイントで遺書
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