以前は外国の小説ばかりを読んでましたが、昨年は日本の本もけっこう読んだように思います。そんなわけで面白かった本中編です。 木下古栗『ポジティヴシンキングの末裔』『いい女vs.いい女』 昨年はじめて木下古栗体験をし、度肝を抜かれました。「古栗は激アツ」という話は聞いてましたが、本当に激アツでした。通勤電車で読みながら悶絶。なんとなくソローキンや中原昌也を思わせる作風だけど、ソローキン作品にはコンセプトが、中原昌也作品には怒りが潜んでいるのに対して、木下古栗作品には偏執的な中学生がいるような気がします(マッチョ、全裸、下ネタ、毛といったモチーフへの執拗なこだわり等)。「デーモン日暮」、「清潔感のある猥談」、「この冬…ひとりじゃない」、「自分 ―抱いてやりたい―」「本屋大将」といった短編のタイトル群がすでに芸術。いつか芥川賞を獲ってほしいです。 エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』 不穏
あけましておめでとうございます。お久しぶりです。 久しぶりすぎて、はてなダイアリーの書き方をちょっと忘れてしまっています。なんということでしょう……。 数少ない趣味のひとつが読書で、昨年も楽しい本をそこそこいろいろ読むことができました。せっかくなのでまとめてみます。 マリオ・バルガス=リョサ『悪い娘の悪戯』 マリオ・バルガス=リョサ(通称リョサさま)の恋愛小説。 一人の男が40年にもわたって一人の「悪女」を愛し続けるというストーリーで、バルガス=リョサの作風としてもちょっと異色のものという感じです(といってもいろんな作風に挑戦する人だけど)。世界各地に神出鬼没に現れ、男たちを翻弄するミステリアスな「悪女」よりも、彼女ひとりを一途に想い続ける温厚で野心とは無縁な主人公のほうに、人間の底知れなさとワンダーを感じさせられます。 チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』 物理的に同じ場所に重なり合う二つ
音もなくビルが現れたときには驚いた。 二度目のテレビ討論会が終わったその日、部屋には誰も通さないようにと言いつけて、バラクはひとりプライベートルームに篭っていた。 椅子に腰掛け、眉間を指で揉む。さすがに疲労が溜まっているのがわかった。初回と同じように、今回の討論会もまあまあの成功を収めたといえる。声を張るごとに陶酔を深める聴衆の熱気。張り付いたような笑顔に押し殺された、マケインの苦々しげな表情。 けれども課題は山積みだった。底の見えない株価の下落。恐慌の予感。早くから予想はしていたが、まさかこんなにすぐに現政権のツケがまわってくるとは。一見、状況はバラクにプラスをもたらしているように思えたが、これだって明日にはどんな風向きになるかわからず、予断を許さなかった。 くそ、せめて本選挙の後だったら―― 「大成功の討論会の後にしちゃ、しけた顔だな」 顔を上げるとドアの前にビルがいた。極太のコイーバ
40代になっても50代になっても、20代の見た目のまま美しくいたい! 50代になっても60代になっても10代や20代の女の子とつきあいたい! こういう願望を世間は馬鹿馬鹿しいと思うのか、それとも率直で自然なものだと思うのか。20年前は「年甲斐もない」と笑われたのかもしれないけど、今はどうだろう? 20代にしか見えない40代の女性が「奇跡」ともてはやされて、歳相応の変化は「劣化」と言われてしまう。親子ほどの歳の差の結婚がメディアを賑わしている。この調子でいくと、10年後、20年後は? のっけからにべもない話をしてしまったけれども、ミシェル・ウエルベックの『ある島の可能性』を読むと、こういう身も蓋もない願望をくだらないと笑えたらどんなにいいか、そんな風に思って暗い気持ちになってしまいます。しかし暗い気持ちになりながら、おもしろくてしょうがない!と興奮して、ページを繰る手が止まらなかった本でもあ
フィフス・エレメント(その人に影響を与え、価値観を構成する要素となった5つの表現)- 空中キャンプ 「その人に影響を与え、価値観を構成する要素となった5つの表現」を挙げていくという遊びである。(中略)「影響を受けやすい中学・高校時代のエレメントほど可」「ありふれたエレメント、恥ずかしいエレメントほど可」 空中キャンプさんのこちらのエントリがおもしろかったので、私も真似してみました。 天空の城ラピュタ 公文式 スガシカオ Xファイル アンネの日記 『天空の城ラピュタ』は、子ども時代、遊びに来た友達のおもてなしビデオとして何十回も観ました。おしゃべりにもお絵かきにも飽きてきた午後4時の気だるい空気が、これを流すと打破されるのです。なんのかんの言って宮崎駿にかなり情操教育されているのかもしれません。一番好きな場面は、ロボット兵が動き出して地獄絵図になるところ。『となりのトトロ』のビデオにもお世話
以下は預言者パウルの半生の数場面につづく物語である。
1.パウルの誕生と青年時代 小生の父となるタコは老獪で恐れを知らず、母となるタコは優美で美しかった。 諸兄は、タコの交尾というものをご存知であろうか。なんでも脊椎世界には「くんずほぐれつ」という言葉があると聞くが、たった4本ぽっちの手足しか持たない脊椎動物からそのような言葉が生まれるということ、そこに小生はいささか哀しみのようなものを覚えずにはいられない。 小生の父にあたるタコと、母にあたるタコは海底で出逢うとすぐさま、8本、8本、計16本の足を絡め、ちょうちょう結び、いかり結び、あやとりの東京タワーなどを即興で作り上げながら、性の営みに情熱の限りをつくした。まさに「くんずほぐれつ」である。その記憶はいまも海に漂っており、ふとした海水の流れから当時の彼らの熱狂をうかがい知ることができる。 母にあたるタコが産卵し、小生の人生の出発点となったのは、原発の排水によってあたためられた海であった。
冴えない田舎医師ボヴァリーと結婚した美しき女性エンマは、小説のような恋に憧れ、平凡な暮らしから逃れるために不倫を重ねる。甘美な欲望の充足と幻滅、木曜日ごとの出会い。本気の遊びはやがて莫大な借金となってエンマを苦しめていく。 たいへん身につまされる小説でした。深みにはまる不倫の恋や莫大な借金っておそろしいね、というのももちろんあるけど、それよりなにより、日ごろ好んで小説なんか読んでるような、夢見がちな人間の救いがたさが描かれているところが一番こわい。現実を物語との二重写しでしか見られず、そこここに運命の恋を見出そうとするエンマは、風車を巨人に見立てて突撃する女版ドン・キホーテのようです。 作者のフローベールが「ボヴァリー夫人は私だ」と言ったの言わないのというのは有名な話ですが、それを言ったら、小説や映画、その他フィクションのたぐいが三度のご飯よりも好きなあなたや私は、みんなボヴァリー夫人にな
岩波新書から『ぼんやりの時間』という本が出ていると聞きました。親近感のわくタイトルなので、読んでみたいと思っています。 でも「ぼんやりの時間」って、そもそもどんな時間なのでしょうね。おそらく以下のような時間なのではないかと私は考えました。 『私家版・ぼんやりの時間』 ぼんやりの朝は早い。意外と早い。 ぼんやり(以下BY)は朝の五時半にはぱちりと目が覚めて、ひとりでに自分の部屋から起き出してくる。起き出して何をしているのかというと、リビングのテレビでぼんやりと、早朝から再放送している『一休さん』を見るのだった。ぼんやりするためなら早起きも辞さない、それがBYだ。『一休さん』を観るBYは(桔梗屋の弥生さんと新右衛門さんが出てくる回はたのしいな)と思った。 早起きしているにもかかわらず、BYはいつも遅刻ぎりぎりに登校する。自分でも不思議だった。 歴史の授業は遣唐使のところだった。けれどもBYは授
きたる12月6日(日)に開催される第9回文学フリマに、文芸同人誌『UMA-SHIKA』第2号で参戦しています。 『UMA-SHIKA』第1号はマンガで参加したので、最初は編集長から「今回もマンガでどうですか」というオッファーをいただいたのですが、「せっかくの文学フリマなので、ここはいっちょう小説を書きたい!」とわがままを言って書かせてもらいました。感謝! 私が書いた小説のタイトルは『ヨアンナと教授』です。いま話題の森ガールが登場する小説……と言ったら、同人のみなさんに嘘つき呼ばわりされましたが、嘘ではありません! ふとしたきっかけから夢を見ずにはいられなくなってしまった人を書きました。 『UMA-SHIKA』第2号には、8人がそれぞれ短編を寄せていますが、どれもかなり個性的でジャンルもバラエティに富んでます。私もゲラで全部読みましたが、すごく楽しいですよ! 小説家の小説がおもしろいのは当た
蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)posted with amazlet at 09.08.18田山 花袋 新潮社 売り上げランキング: 25656 Amazon.co.jp で詳細を見る 中年作家が年下の女弟子に去られて、女弟子の蒲団の匂いを嗅ぎながら泣く……というあらすじで有名な『蒲団』。たまたま青空文庫を開いて冒頭を読んだら面白くて、そのまま全部一気読みしてしまいました。 この面白さっていうのが、描写力や文章の美しさに感心したり、巧みな構成に驚いたりというような、ふつう小説に期待する面白さとはかなり違っています。なんせ主人公に起こった出来事をつらつら並べただけで、これといって伏線や凝った構成があるわけでないし、主人公の視点で書かれてると思ったら、いきなり妻や女弟子の視点に切り替わって違和感を覚えるしで、現代の読者からすると、まだまだ黎明期にあり試行錯誤している日本の近代小説という感じ
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く