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内田樹の検索結果1 - 40 件 / 88件

  • Re:煽りじゃなくて40代の男性は何のために生きているのか教えてほしい - いつか電池がきれるまで

    anond.hatelabo.jp 「こんな生活で、生きている意味、あるのかなあ……」と僕もずっと思いながら、40代を過ごし、もう50歳も過ぎてしまいました。 なんというか、ずっと、異世界転生できなかった「なろう小説」の主人公みたいな感じです。 若い頃の自分が、こんな未来を知ったら、きっと絶望したと思う。 振り返ってみると、僕は若い頃からずっと絶望し続けていて、その都度、テレビゲームやマイコンに出会ったり、ネットでものを書いたり、家族ができたりして、なんとかここまで続けてきただけなのかもしれません。 能動的に「生きる意味」を感じていたというよりは、生きていればときどき良いこともあったので、積極的に死を選ぶほどの衝動が起きなかった。 正直、30代くらいまでは、目の前の仕事や「やらなければならないこと」をやり過ごすのに精一杯で、「生きる意味」とか、あまり考えたこともなかったのです。生きる意味よ

      Re:煽りじゃなくて40代の男性は何のために生きているのか教えてほしい - いつか電池がきれるまで
    • 民主政の終わり - 内田樹の研究室

      都知事選の翌日にニッポンドットコムという媒体からインタビューを受けた。以下はその記事に少しリタッチしたもの。 今回の都知事選では、選挙は民主主義の根幹を為す営みであるという認識がかなり深刻な崩れ方をしているという印象を受けた。選挙というのは有権者が自分たちの立場を代表する代議員を選ぶ貴重な機会であるという認識が日本からは失われつつあるようだ。 投票する人たちは「自分たちに利益をもたらす政策を実現してくれる人」を選ぶのではなく、「自分と同じ部族の属する人」に投票しているように私には見えた。自分と「ケミストリー」が似ている人間であるなら、その幼児性や性格の歪みも「込み」で受け入れようとしている。だから、仮に投票の結果、自分の生活が苦しくなっても、世の中がより住みにくくなっても、それは「自分の属する部族」が政治権力を行使したことの帰結だから、別に文句はない。 自分自身にとってこの社会がより住みよ

      • 若い時の無目的なインプットが重要|山口周

        以前からずっと思っていたことなのですが、どこかで書いておかないと忘れちゃうなと思っていたので、備忘録代わりに。 結論から先に言えば「無目的なインプットをやってこなかった人は、肝心カナメの時期にアウトプットできなくなる」という話です。どうしてそういうことになるのか、順に説明しましょう。 まず、いわゆる「勉強」について、ここでおそるべき一つの法則を提案したいと思います。それは「アウトプット=インプットの法則」です。一体どんな法則なのかというと「人生全体で見てみれば、アウトプットの量とインプットの量は同じである」ということです。アウトプットする人はインプットしているし、インプットしていない人は、どこかで枯れる」ということで、実にシンプルな法則。 実名を挙げるのはさすがに憚られるので、ここでは差し控えますが、一時期にベストセラーを連発して飛ぶ鳥を落とすような勢いだったのに、ぱったりとアウトプットが

          若い時の無目的なインプットが重要|山口周
        • 韓国での非常戒厳宣布と解除を見て唐突に「韓国は民主主義が機能している」と言い出すみなさん

          もへもへ @gerogeroR まぁ考えるまでもないんだけど「韓国が戒厳令をしいて、抵抗している民衆や議員やジャーナリストを見て『日本と違って民主主義がちゃんと機能している』と感じた」とかいうトンチキバカが現れると思うけど、「戦後70年間ほぼずっと政権を握ってる政党が、独裁も戒厳令もせずに穏当に議会を合法的に運営していた」という事実の方がよっぽど民主的で民主主義が根付いた国では?と思うんだけど、あっち系の人はそうは感じないようです。 2024-12-04 09:35:45 もへもへ @gerogeroR 一応保守系の底辺ネットワーク頭髪多めの技術者。 時たま個人で仕事をうけていたりもします。(副業OKなので) ゲーム関連や政治関連についての情報や発信をしています。 なぜか政治的には真逆なんですが、個人的恩義から共産党に投票してます。 北守さん @hokusyu1982 クーデターが一夜にし

            韓国での非常戒厳宣布と解除を見て唐突に「韓国は民主主義が機能している」と言い出すみなさん
          • 今中高生に伝えたいこと。進路について - 内田樹の研究室

            「今、中高生に何を伝えたいこと。進路について」というお題を頂きました。 でも、進路について僕から皆さんに特に伝えたいことはないんです。「好きにすればいい」という一言でおしまいです。無責任に聴こえるかも知れませんが、「好きにする」のって結構大変なんですよ。 だって、みなさんが「これから好きに生きたい」と言って進路の希望を述べたら、たぶんおおかたの親御さんは「ダメ」と言うはずだからです。「世の中、そんなに甘くないぞ」とか「好きなことをして食っていけると思っているのか」とか「嫌なことを我慢するから給料がもらえるんだぞ」とか、いろいろ。 もちろん、そんな親のダメ出しに対してはびくともせずに「いいえ、好きにさせてもらいます」と好きにするのが正しい子どもの生き方です。これは僕が保証します。 でも、好きに生きたら必ず成功するというわけではありません(そんなはずがない)。好きに生きてもしばしば失敗します。

            • ある女子大の財政再建でコンサルに2000万円で1年間リサーチさせたら、A4数枚の報告書を渡された→コンサルの仕事とは何かを考えさせられる

              らっくす @adjacencypair コンサルと話し合うっていう業務が増えるだけやんか😱なんでコンサルなん?コンサルに教育がわかるの? 教員の長時間労働対策で民間コンサル派遣へ 1800万円投じ大阪府立学校15校に導入(ABCニュース) - Yahoo!ニュース news.yahoo.co.jp/articles/a9516… 2025-02-09 14:16:34 リンク Yahoo!ニュース 教員の長時間労働対策で民間コンサル派遣へ 1800万円投じ大阪府立学校15校に導入(ABCニュース) - Yahoo!ニュース 大阪府が2025年度から、教員の長時間労働への対策として、民間のコンサルタントを学校に派遣する方針であることがわかりました。 大阪府教育庁は、府立高校や支援学校など府立学校の教員の働き方改革と 4 users 78

                ある女子大の財政再建でコンサルに2000万円で1年間リサーチさせたら、A4数枚の報告書を渡された→コンサルの仕事とは何かを考えさせられる
              • 農業をもう一度基幹産業に - 内田樹の研究室

                農業についてよく講演や寄稿を依頼される。私自身は都会生活者で、農業とはほぼ無縁の生活を送っている人間である。だから、私に農業のことを訊きに来るのは「現場のことはよく知らないけれど、日本の農業のさきゆきに強い不安を抱いている人間」の意見も(参考のために)聴いておきたいということなのだと思う。だから、以下に私が書くことは、ふつうの農業関係者がまず言わないことを、まず用いない言葉づかいで語ることになる。そういう視点からも農業の重要性と危機を語ることもできるのだということを分かって頂きたい。 私は1950年、戦後5年目の東京の多摩川のそばで生まれた。下丸子の駅から多摩川の河川敷まではかつて軍需工場とその下請けが立ち並んでいたところで、B29の爆撃でほとんど廃墟となった。そのあとに人々が住み着いたのである。 私の家の前には「原っぱ」があった。春には菜の花が咲き、秋にはススキが揺れる、遠目にはきれいな

                • 追記)ユロックの母さんの記事が面白かったので続きを書いた。 https://anond.ha..

                  追記)ユロックの母さんの記事が面白かったので続きを書いた。 https://anond.hatelabo.jp/20240619014605 本文) キャンセルカルチャーの問題点は、「悪い・正しくない」と思う倫理が内発的なものではないことなんだろう。 どこかで知った聞きかじりの「教養」に発するものだから、キャンセルすることでなんとなく自分が「正しい側」にいることに内心満足してしまう。「正しい側」にいるというのは安全地帯なので、いくらでも無知な人を罵倒し、笑い飛ばせる。その教養は実際のところ、★のたくさんついたブコメかもしれない、その程度に知った教養でも安全地帯に入った感覚を得られる。 つまり、「いーけないんだいけないんだー、センセにいってやろ」のアレと大差ない。 その程度の教養と正義感で、MVを取り下げ、ミュージシャンを謝罪に追い込む社会なわけだね。 かつて、なだいなだが、ケシカラニズムと

                    追記)ユロックの母さんの記事が面白かったので続きを書いた。 https://anond.ha..
                  • 農業は甦るか - 内田樹の研究室

                    京大の藤井聡教授と農業について話す機会があった。藤井先生と私は政治的立場はずいぶん違うが、農業を守ることと対米従属からの脱却が必要だという点については意見が一致している。二人とも「愛国者」なのである。 ご存じの通り、日本の農業は衰退の一途をたどっている。私が生まれた1950年代、日本の農業就業人口は1500万人だった。総人口の2割が農業に従事していた計算になる。2030年の農業従事者は予測で140万人。かつての1割以下にまで減ることになる。 わが国が国の食糧自給率は38%(鈴木宣弘東大教授によると実は10%以下らしい)。食糧自給率はカナダが266%、オーストラリアが200%、アメリカが132%、フランスが125%、ドイツが86%、英国が65%、イタリアが60%。日本は先進国最低である。政府は2030年には自給率を45%まで上げることを目標にしているが、農業従事者が減り続けているのに、どうや

                    • バカ増殖中の日本に知の巨人が警鐘…「精神年齢が幼児の大人」が社会システムを腐らせる絶望的事実 「論破」をありがたがる風潮が絶望的な結果を招くワケ

                      お客様は神様ですと本気で信じているのか、土下座での謝罪を要求する。自分が絶対的な正義だといわんばかりに、SNSで他者を叩き続ける。政治家の劣化もはなはだしい。バカが増殖する今、賢者の声に耳を傾けよう。 抑制の利かない人が社会の主流を占める 【内田】日本人の知性はどんな状態なんでしょう。ネット上では、やけに威勢のいいことを言う人間が増えました。差別的な思想や利己的な考えは、心の中にあっても口にはしないものだったのですが、今は思ったことをそのまま口に出すようになりました。これは知性の問題というより、むしろ抑制の問題ではないかと思います。僕はもう10年ほど、「抑制が利いてる」という評言を耳にした覚えがありません。「抑制の利いた文体」を褒めるのも久しく見たことがない。 【養老】10年くらい前ですけれど、「子どもの辛抱」について研究してる人がいてね。パソコンの画面を見せて「こういうことがあったらボタ

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                      • フリーライダーの効用 - 内田樹の研究室

                        高齢者の集団自決が高齢化対策の秘策であると公言した若い経済学者の発言が話題を呼んでいる。 彼の言う「人間は引き際が重要だと思う」ということにも「過去の功績を使って居座り続ける人がいろいろなレイヤーで多すぎる」という事実の摘示にも私は同意する。でも、使えないやつは有害無益だから、集団から追い出すべきだという論には同意しない。人道的な立場からというよりは組織人としての経験に基づいてそう思うのである。 組織に寄生して、何も価値を生み出さず、むしろ新しい活動の妨害をする「フリーライダー」はどのような集団にも一定数含まれる。この「無駄飯食い」の比率を下げることはたしかに集団のパフォーマンスを向上させることにある程度までは役立つだろう。ただし、「ある程度」までである。というのは「無駄飯食いの排除」作業に割く手間暇がある限度を超えると、その作業自体が集団のパフォーマンスを著しく低下させるからである。 組

                        • まず読みたい100冊

                          I. <まず読みたい図書> 1)全学生向きの図書 著作名 著者・編者名 *シリーズ名な ど 出版社 西暦発行年 現在書店で 入手が可能 か(○または ×) 筑波大学図書館 での所蔵の有無、 ある場合は配架番 号 *その他の情報 紹介コメント(80字以内) 三四郎 夏目漱石 岩波文庫 岩波書店 ◯ 081-I95-G10-6 漱石が明治時代の大学生を描いた名作です。自分と比べて見るのも一 興。 地獄変・偸盗 芥川龍之介 新潮文庫 新潮社 ◯ 無 各作品は図書館所蔵 の他の版で読むこと ができる。 何百もの小説を残した芥川。「羅生門」だけじゃ物足りない。 万葉集と日本人:読み継がれる 千二百年の歴史 小川靖彦 角川選書 KADOKAWA 2014 〇 911.12-O24 古典と呼ばれる作品が現代までどのように読み継がれてきたのか、そして それは書物(モノ)としてどのように伝えられてきたのか。

                          • いまの日本は若者に「チャンス」より「屈辱感」を与えている…内田樹が「昭和より令和のほうが意地悪」とする理由 問題は「力のある人たち」のマナーである

                            日本に「勢い」があった時代 1970~90年代の日本の組織はどこも「勢い」がありました。「勢い」というのはただ金が儲かるということではないんです。とにかく仕事がどんどん増えてくる。それもやったことのない仕事が。 僕は’75年に大学を卒業してから2年近く定職に就かずふらふらしていました。一応「大学院浪人」を自称していたので、フランス語とフランス文学史の勉強だけは一日3、4時間くらいしていたのですが、あとは自由時間です。でも、家賃も払わないといけないし、ご飯も食べないといけないし、お酒を飲んだり、麻雀したり、スキーに行ったりもしなくちゃいけないので(いけないということはないんですけど)、生活費を稼がねばならない。 その頃の生業なりわいはほとんど友だちから回ってきたものでした。「内田、暇なんだろ?」という前口上付きで仕事が降ってくる。頼まれた仕事は家庭教師でもなんでもやりました。主な収入源は英語

                              いまの日本は若者に「チャンス」より「屈辱感」を与えている…内田樹が「昭和より令和のほうが意地悪」とする理由 問題は「力のある人たち」のマナーである
                            • 円城塔が『コード・ブッダ』で会得した危険な技術と描写の消滅について|畠山丑雄

                              去年の京都での円城さんとの対談で『コード・ブッダ』の中世ぽさについて話したが、これは前提として、今小説から描写が消えつつあり、説教(エンパワメント)/法悦(エモ)復権の時代であるという意識がある。読者が舶来ものに飽きたと言えばそれまでであるが、書き手としては身の振り方を考えなければならない。 司馬遼太郎の語り口というものがある。司馬はほとんど描写をしない。するのは説明である。描写というのは上にも書いたが近代の輸入技術であり、書くのも読むのもはっきり言って面倒である。難点もあって、ストーリーにブレーキがかかる。小説の速度が落ちる。うまく行っても継ぎが残る。ではなぜそんな技術を輸入したかというと、いろいろな見方・理由があるが一番には説得力である。フィクションというものはフィクションなのでまず読み手にそんな世界が存在することを了承してもらう必要があるのだが、時間をかけて視覚的な証拠を並べると、「

                                円城塔が『コード・ブッダ』で会得した危険な技術と描写の消滅について|畠山丑雄
                              • 一票が軽いから選挙に行く

                                内田樹の「民主政の終わり」という記事があった。 http://blog.tatsuru.com/2024/07/12_0846.html 記事全体の論旨についてはここでは問題としない。 ただこの中にあった、 投票する人たちは「自分たちに利益をもたらす政策を実現してくれる人」を選ぶのではなく、「自分と同じ部族の属する人」に投票しているように私には見えた。 という一節が気になった(もちろん内田氏は「自分に似た人」に投票する行動を批判している)(この論とは別に、「勝馬を当てる」みたいな投票行動も最近は多いようですね)。 自分個人としてはそもそも「自分たちに利益をもたらす人を選ぶ」意識がなく、「損得は別として(何なら自分にとっては損でも)、こうあってほしいなぁ、という理想に少しでも近そうなものに投票する」イメージでやってきた。ちなみに個人的には選挙権を得てからほとんど毎回投票している(特定の支持政

                                  一票が軽いから選挙に行く
                                • 兵庫県知事選とメディアの役割 - 内田樹の研究室

                                  兵庫県知事選挙は過去に見たことのない展開になった。 斎藤前知事は、公人としての資質に関わる内部告発があった時に「犯人捜し」を強行して、内部告発者を懲戒処分にしたことが公益通報者保護法違反である疑いを持たれた。百条委員会でも前知事は「処分は適切だった」と譲らず、道義的責任も法的責任も拒否した。その結果、県議会の全会一致の不信任を受けて失職した。その前知事が出直し選挙で圧勝した。 県議会と対立して失職に追い込まれたが、「県議会と知事と、どちらの言い分が正しいか」という選択を有権者に求めて再選を果たした県知事は過去にも存在した。だが、今回は事情が違う。問われたのは議会と知事の政策上の対立ではなく、斎藤氏個人の資質問題だったからである。だが、公人として適性を欠いているという理由で不信任を突きつけられた前知事はこれを「大胆な県政改革をめざした知事が、守旧派県議会と既存メディアに敵視された」という政治

                                  • 『東京ミドル期シングルの衝撃』(宮本みち子、大江守之編著、東洋経済新報社) - 内田樹の研究室

                                    東洋経済新報社の渡辺さんから新刊の書評を頼まれたので少し長い紹介を書いた。タイトルはやや挑発的だけれど、人口動態と地域コミュニティ形成についての手堅い研究である。でも、ほんとうに衝撃的なのは、こういう研究にごく最近まで誰も見向きもしかなったという事実の方なのである。 人口減問題について語る人たちの多くはマンパワーの不足やマーケットのシュリンクや年金や医療制度の持続可能性について話すけれど、ほんとうにシリアスなのは「高齢期に入って社会的に孤立化したシングルのアンダークラス化」にある。本書はそのタブーを正面から取り上げた例外的な仕事である。 「アンダークラス」というのは「ワーキングクラス」のさらに下に位置する、生活保護なしでは暮らしていけない最貧困層のことである。差別と排除の対象となり、社会の底辺に吹き溜まる閉鎖集団である。 日本でもこれから「高齢者アンダークラス」が大量出現する可能性がある。

                                    • 虚無の政治力学 - 内田樹の研究室

                                      総裁選中は現行の「健康保険証」と「マイナ保険証」について問われて、「併用も選択肢として当然ある」と答えていた石破茂氏だったが、政権が発足すると同時に、健康保険証を12月2日に廃止して、マイナンバーカードに原則一本化する政府方針を「堅持する」とアジェンダを覆した。 多くの人がこの食言を咎めている。 でも、よく考えると、間尺に合わない話である。自民党総裁選は「内輪のパーティ」の話であって、総裁になるためには別に「国民に受けるアジェンダ」を掲げる必要はなかったのである。ではなぜ一瞬だけ期待させておいて、また失望させるような「余計なこと」をしたのか。 健康保険証の廃止に対しては医療現場も利用者も反対している。早期導入を求めているのは霞が関と財界だけで、これを争点化すれば総選挙で票を減らすことはあっても増やすことはない。ご祝儀で支持率が高いうちに総選挙という知恵が働くなら、「健康保険証廃止は延期」に

                                      • トランプのアメリカ - 内田樹の研究室

                                        ジョー・バイデンとドナルド・トランプの討論が終わった。双方とも相手を罵り合うという見苦しい展開だったが、口から出まかせの嘘を自信たっぷりにつきまくるトランプを相手にきちんとファクトに基づいて反論することができなかったバイデンの衰えぶりに米国の有権者はショックを受けたようだ。民主党は大統領候補者を替えた方がよいという意見が出て来たが、今から候補者を選定して11月の大統領選に間に合うだろうか。 おそらく世界は二期目のトランプを迎えることになる。彼は「アメリカ・ファースト」を掲げて、前任者の政策のほとんどを覆し、国際秩序の維持には副次的な関心しか示さないだろう。 ただし、「アメリカ・ファースト」はトランプの独創ではない。この言葉を最初に使ったのはチャールズ・リンドバーグ大佐をリーダーに頂いた大戦間期の反戦派の人々である。彼らは欧州の戦争に米国は関与すべきではないと主張した。仮にナチスがヨーロッパ

                                        • 性善説と民主政の成熟 - 内田樹の研究室

                                          日替わりで政治的事件が続くので、コラムを書くのが大変である。でも、これはある意味では「よいこと」だと思う。それだけ政治的状況が流動化しているということだからである。 公人としての資質問題で失職した県知事が、なぜかSNSで圧倒的な追い風を得て再選されたかと思うと、そのSNS戦略を受注した広報会社の社長が内幕を公開したせいで公選法違反を咎められるという展開になった。 「選挙にまつわる膿」がこうして噴き出したおかげで「なるほど選挙制度というのはこういうふうに腐ってゆくのかが可視化された。これも「よいこと」に数えてよいかも知れない。 ある候補者は公選法が想定していないトリッキーな行動を次々ととることで都知事選も県知事選もカオス化してくれたけれど、改めて公選法が性善説に基づいて設計されているという厳粛な事実を前景化してくれた点では功績があったと思う。 私たちの社会制度の多くは性善説に基づいて設計され

                                          • 近代市民社会の再興のために - 内田樹の研究室

                                            『月刊日本』8月号にロングインタビューが掲載された。「野蛮への退行が始まった」というタイトルだけれど、私が言いたかったのは「近代市民社会を再興しなければならない」という話である。 ― 現在、世界は歴史的な大転換を迎えています。今、世界では何が起きていると考えていますか。 内田 今起きているのは「近代の危機」だと思います。近代市民社会の基本理念は「公共」です。その「公共」が危機的なことになっている。 ホッブズやロックやルソーの近代市民社会論によると、かつて人間は自己利益のみを追求し、「万人の万人に対する闘争」を戦っていた。この弱肉強食の「自然状態」では、最も強い個体がすべての権力や財貨を独占する。でも、そんな仕組みは、当の「最強の個体」についてさえ自己利益の確保を約束しません。誰だって夜は寝るし、風呂に入るときは裸になるし、たまには病気になるし、いずれ老衰する。どこかで弱みを見せたら、それで

                                            • 農を語る(前編) - 内田樹の研究室

                                              食料の自給自足は国の根幹である 藤井聡 今回は、神戸女学院大学名誉教授で武道家でもあられる内田樹先生にお越しいただきました。内田先生は文学や思想、社会科学などいろいろな側面から時勢的な問題について論じられていますが、以前この「農を語る」にもご登壇いただいた堤未果さんと食と農の問題について対談されていましたよね 。それを拝見したこともありまして、今回お越しいただいた次第です。どうぞよろしくお願いいたします。 早速ですが、内田先生は現在の「農」についてどのようにお考えでしょうか。 内田 僕への講演依頼で一番多いのは教育関係ですが、次に多いのが医療と農業です。JAさんをはじめいろいろな団体から声がかかっていて、あちこちで講演しています。演題として多いのは人口減少についてですね。今農村は急激な人口減少で、もはや過疎地を通り越して無住地化しつつあります。農村の現場の細かいことは研究者じゃないのでよく

                                              • 内田樹選集 - 内田樹の研究室

                                                今日はこれから病院ですい臓がんの切除手術の日程打ち合わせである。手術が無事に終わったとしても、もう74歳であるから、相当にダメージは残るだろう。もうぼちぼち「店じまい」の頃合いである。 何度もそう言って「隠居する隠居する」と宣言してきたが、思い通りにならない。むしろ70歳を過ぎてから仕事が増えてしまった。理由はいろいろある。一番大きいのは「もう後がない」ので、言いたい放題言うようになったせいであろうと思う。いまさら無理して「賢そうなこと」を言って、世間の評価を何ポイントか上げても仕方がない。できることなら「ウチダ以外誰も言いそうもない変痴奇論」を語って、世間のみなさまに「なるほど、そんな変な考え方もあるのか」と思っていただく方が、何ごとかを言う甲斐がある。 でも、もうさすがに身体がついてゆかないので、店じまいの準備を始めることにした。 もうこのあと長いものを書くことはないと思うので、手始め

                                                • 東洋経済のインタビュー - 内田樹の研究室

                                                  ―アメリカの学生たちを中心にガザ侵攻に対する激しい抗議活動が起こりましたが、若い人たちはたんにガザ侵攻だけに怒っているのでしょうか。人種差別や気候変動、あるいは、最近の大人たちなど多岐にわたって怒りをぶつけているように見えます。 そうだと思います。今の世界は「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」いう視野狭窄的なものの見方が支配的です。だから、人々は人口減や気候変動など長いタイムスパンの中で考察すべき危機に対しては考えようとしない。世界どこでもそうです。世界を見回しても、グローバルリーダーシップを取ることのできるだけの宏大なビジョンを語る政治家がいない。若い人たちが苛立つのは当然だと思います。 ―日本では抗議運動もささやかですし、報道も下火な感じがします。 日本はそもそも「抗議」とか「反抗」とか「抗命」ということに対して強い抑圧がかかる社会です。いったん大勢が決まると、全員がそれに

                                                  • 山口周 無節操なインプットが強力な「知的戦闘力」を生む

                                                    アウトプットがぱったりと枯れてしまう人がいる一方で、長期間にわたってアウトプットの質・量を維持できる人がいます。この違いはどこから生まれてくるのでしょうか。外資系コンサルとして活躍し、今は独立研究者として注目を集める山口周氏の知的生産術を公開した日経ビジネス人文庫『知的戦闘力を高める 独学の技法』から抜粋・再構成してお届けします。 「インプットしまくる時期」が必要 「読書は短期目線でいい」という指摘を別の言葉で表現すれば、「無目的なインプットこそが大事」ということになります。なぜかというと「無目的なインプットをやってこなかった人は、肝心要の時期にアウトプットできなくなる」からです。 どういうことでしょうか。まずは、基本的な前提から確認しておきましょう。それは「アウトプットとインプットの量は長期的には一致する」という前提です。これは要するに「人生全体で見てみれば、アウトプットの量とインプット

                                                      山口周 無節操なインプットが強力な「知的戦闘力」を生む
                                                    • 理想の民主政 - 内田樹の研究室

                                                      総選挙が終わり、長きにわたって続いた「自民一強」時代が終わった。この選挙結果はこれからの日本にどんな変化をもたらすのだろうか。とりあえず私たちが慣れ切っていた重要法案の「強行採決」というものがなくなる。国の方向を決めるような政策が十分な国会審議抜きに「閣議決定」だけで決まるということもなくなる。これは空洞化していた日本の民主政にとっては喜ばしい事態である。 久しく人々は「一強」体制を好ましいものだと思っていた。他党との交渉や妥協なしに、与党がやりたいようにやるのはよいことだと思っていた。というのは、世の中というのはおおむね「そういうもの」だったからだ。 株式会社というのは間違いなくそうだ。経営者が発令する指示に部下が「それ、おかしいですよ」と抗命するということはない(したら業務命令違反である)。トップの指示が末端まで遅滞なく示達されて、かたちになる。それを見慣れた人たちは「国というのも、そ

                                                      • 大阪市の教育委員会に招かれた - 内田樹の研究室

                                                        大阪市教育委員会から講演依頼を受けた。教員たちの団体からはこれまで何度も講演に招かれているが、教委からお声がけ頂いたのは初めてである。大阪の教育行政を手厳しく批判し続けてきた私の下に教委から講演依頼が来たというのは、大阪市のこれまでの教育行政に現場が拒否反応を示し始めたことの徴候かも知れない。 私の教育論は別にそれほど反体制的なものではない。 学校の機能は子どもたちの査定や格付けではなく、彼らの市民的成熟を支援することである、というしごくまっとうな主張である。だから、教員たちが子どもたちに向けて告げるべき言葉は「私は君たちを歓待し、君たちを守り、君たちの成熟を支援する」でなければならない。子どもたちを歓待し、保護し、支援するのが学校の役目である。私はそう信じている。 多くの教員は私の言葉に同意してくれる。でも、教育行政の要路にいる方たちは違う。 彼らの多くは学校というのは「子どもたちを査定

                                                        • 非人情だけど親切な人 - 内田樹の研究室

                                                          抱樸の「きぼうのまち」プロジェクトのためのクラウドファンディングがもうすぐ終わる。目標額の40%を超えたけれど、まだ足りない。応援のメッセージを頼まれたので、書いた。 困っている人を助けることができる人って、どういうタイプなんだろう。 もちろん、「情に篤い人」だ。「優しい人」、「共感力の高い人」、「想像力の豊かな人」。たぶんそういうふうに指折り数えることができると思う。 でも、僕はこのどれにも当てはまらない。 薄情で、気配りがなく、共感力に乏しくて、想像力が欠如している。いや、別に謙遜しているわけじゃなくて、ほんとうにそうなのだ。面と向かって言われるし。 でも、僕はいろいろな支援活動に積極的にコミットしている。そもそも私財を投じて、道場と学塾を建てて、地域社会の拠点にしようとしてきた人間なんだから、うっかりして僕のことを「社会活動家」だと思っている人だっているかも知れない。 でも、もう一度

                                                          • 「私の原点」 - 内田樹の研究室

                                                            夏に『學鐙』という媒体に「私の原点」というテーマでの寄稿を求められた。多田先生の弟子になったのが私の原点である。そのことを書いた。年末に『學鐙』の編集者からメールをもらった。何を書いたか忘れていたので、筐底から取り出した。 私が人生の転換点に立ったのは1975年の12月末のある日ことである(正確な日付は残念ながら覚えていない)。その少し前に私は合気道自由が丘道場に入門していたのだけれど、その日に多田宏先生の弟子になった。この人を生涯の師としようと決めたのである。それが私の原点である。 その年の三月に私は大学を卒業した。在学中就活というものをしていなかったし、受験勉強をしないで臨んだ大学院入試にも落ちたので、卒業と同時にルンペンになった。 さいわい、70年代なかば日本社会は高度成長期のただなかであり、私のような人間のところにもぱらぱらと仕事の依頼があった。翻訳会社のバイトを週二日、家庭教師を

                                                            • 兵庫県政混乱巡り市民団体が集会 思想家の内田樹さんら講演「公人の資質とは何か考えるべき」 神戸

                                                              兵庫県の斎藤元彦知事に絡む告発文書問題やその後の混乱を巡り、市民団体「兵庫県政を正常に戻す会」が24日、神戸市中央区の神戸文化ホールで集会を開いた。思想家で神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんらが講演した。 同会は今年1月に発足。斎藤知事が再選された昨年11月の知事選について、県警と神戸地検に「迅速かつ厳正なる捜査」を求める署名活動をしている。24日時点で3500筆以上の署名が集まっており、3月上旬に提出する予定という。 同会によると、集会にはオンラインでつないだサテライト会場を含めて1500人が参加した。 講演で内田さんは「みんなが幸せに暮らすために自治体がある。県がそもそも何のために存在するのか、(県政の正常化には)原点に返ることが必要」と強調した。自治体の役割について「市民生活を守り市民の成長を支えることが公共の使命」と指摘。公人には道義性が求められるとし「地方公共団体の『公共』という

                                                                兵庫県政混乱巡り市民団体が集会 思想家の内田樹さんら講演「公人の資質とは何か考えるべき」 神戸
                                                              • 今週のはてなブックマーク数ランキング(2024年7月第2週) - はてなブックマーク開発ブログ

                                                                はてなブックマークのブックマーク数が多い順に記事を紹介する「はてなブックマーク数ランキング」。7月8日(月)~7月14日(日)〔2024年7月第2週〕のトップ30です*1。 順位 タイトル 1位 誰も教えてくれない「分かりやすく美しい図の作り方」超具体的な20のテクニック | TomoyukiArasuna.com 2位 クソ不動産業界の闇 マンション売却で500万損しないための警告 3位 集中して作業する技術/how_to_work_deeply - Speaker Deck 4位 【証拠写真入手】旭川殺人事件被告と警察官らの醜態|警視ら13人カラオケ店で飲食 | HUNTER(ハンター) 5位 初めてスティック掃除機を買う前に知っておけ 6位 フルリモートで田舎に戻ったけど文化がなくて無理すぎる 7位 ふかわりょう「石丸さん、サブウェイ注文できるかな」から始まる大喜利大会 - Toge

                                                                  今週のはてなブックマーク数ランキング(2024年7月第2週) - はてなブックマーク開発ブログ
                                                                • コミュニズムのすすめ - 内田樹の研究室

                                                                  『だからあれほど言ったのに』所収の一文であるが、これをブログに上げたのは、ある学習塾の小学校六年生対象の模試に以下の文章が使用されたからである。これを小学校六年生に読ませたのか・・・と思うと驚く。世の中は変わりつつあるのかも知れない。 現代日本の際立った特徴は富裕層に属する人たちほど「貧乏くさい」ということである。富裕層に属し、権力の近くにいる人たちは、それをもっぱら「公共財を切り取って私有財産に付け替える」権利、「公権力を私用に流用する権利」を付与されたことだと解釈している。公的な事業に投じるべき税金を「中抜き」して、公金を私物化することに官民あげてこれほど熱心になったことは私の知る限り過去にない。 税金を集め、その使い道を決める人たちが、公金を私財に付け替えることを「本務」としているさまを形容するのに「貧乏くさい」という言葉以上に適切なものはあるまい。今の日本では「社会的上昇を遂げる」

                                                                  • 『無知の楽しさ』についての質問票 - 内田樹の研究室

                                                                    韓国の出版社企画で「無知の楽しさ」という本が出た。韓国の編集者や訳者の朴東燮先生からの質問に私が答えて一冊の本になったのである。それについてのメールでのロングインタビューがあったので収録。 内田先生、こんにちは 私は韓国で、作家、そして弁護士として働いているチョン・ウジンと申します。 このような形で、内田先生とお会いできる機会が得られて、ほんとうに嬉しく思います。 先日韓国で出版された『図書館には人がいないほうがいい』を読み、内田先生のまさに「大ファン」になり、先生のご本を何冊か家に積読していて(もちろん韓国語版ですが)、一冊ずつ読んでおります。 私はそれらの本の内容からいろいろ影響を受けているのですが、その中でももっとも印象に残っているのは「本というのは、およそ死ぬまでに読み切れなくても買って積んでおくものである」というところでした。そのおかげで最近本の購入量が本当に増えてしましました。

                                                                    • 図書館には人がいないほうがいい 内田樹(著) - アルテスパブリッシング

                                                                      紹介 コモンとしての書物をベースに新しい社会を作るために。 司書、図書館員、ひとり書店、ひとり出版社…… 書物文化の守り手に送る熱きエール 世界でただ一人の内田樹研究家、朴東燮氏による 韓国オリジナル企画の日本語版を刊行! 2023年の講演「学校図書館はなぜ必要なのか?」をメインに、 日韓ともにきびしい状況に置かれている 図書館の本質と使命、教育的機能、あるべき姿を説き、 司書や図書館人にエールを送る第1部「図書館について」と、 「書物の底知れぬ公共性について」(書き下ろし)、 「本の未来について」、「書物は商品ではない」など、 「読む」ことの意味や書物の本質と未来を語る 第2部「書物と出版について」で構成。 朴東燮氏の卓抜な内田樹論「『伝道師』になるということは」と 李龍勳氏の推薦文「『図書館的時間』を取り戻すために」を収録 [本文より] 「僕は図書館というのも、本質的には超越的なものを

                                                                        図書館には人がいないほうがいい 内田樹(著) - アルテスパブリッシング
                                                                      • 隠居宣言 - 内田樹の研究室

                                                                        この原稿が掲載されるころにはすい臓がんの切除手術を受けた後でベッドの上にいるはずである。さいわい早期発見だったので、それほどおおごとにはならずに済み、年末退院で、来春からは全面的に社会復帰できるはずである(希望的観測)。 いつも年賀状の宛名書きをしている時期に入院しているので、今年に限り年賀状は欠礼させてもらうことにした。道場の大掃除はじめあれこれのイベントも「病み上がり」を口実にさぼることにする。もう先頭に立ってばたばたする年でもないということである。 病を得たことを奇貨として、本格的に「隠居」することにした。もちろん、これまでも還暦や古希を迎えるたびに「これからは隠居だ」と宣言していたのだけれど、誰も本気にしてくれない。次から次に用事を言いつけられ、「その日は空いていますか?」と訊かれると嘘も言えない。気がつけばスケジュールが仕事で一杯になっていた。 今回診断が確定してすぐに年内のスケ

                                                                        • 最悪の事態について想像力を行使することの意味について - 内田樹の研究室

                                                                          ディストピアを語る理由は、ディストピアのありさまをこと細かに語るとディストピアの到来を阻止できる可能性があるからです。これは人類のある種の知恵なんだと思います。 「ディストピアもの」が書かれ出したのは20世紀に入ってからです。オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』とかジョージ・オーウェルの『1984』とかがたぶん最初です。でも、ディストピアSFが大量生産されたのは1950年代、60年代のアメリカです。その頃に大量生産されたのは、米ソの間で核戦争が起きて、世界が滅びるという話です。わずかなヒューマンエラーによって核戦争が始まり、文明が消滅する。そういう話です。映画であれ、テレビドラマであれ、漫画であれ、小説であれ、膨大な数のディストピアムが書かれました。 僕はSF少年だったのでその頃にリアルタイムで大量のSFを読みました。『博士の異常の愛情』とか『未知への飛行』とか『猿の惑星』とか世界が

                                                                          • 農を語る 中編 - 内田樹の研究室

                                                                            「対米自立」という気概の喪失 内田 「対米従属を通じての対米自立」というトリッキーな国家戦略が60年代までの自民党政治にはあったと思います。アメリカからの国家主権の回復、北方領土と南方領土(沖縄)の奪還がわが国の最優先目標であることについては、六〇年代ぐらいまでは左右問わずに国民的な合意がありました。けれども、ある時点から誰も「対米自立」を口にしなくなった。 藤井 それを言うと「アホか」という雰囲気になってきましたよね。特に現政府与党関係者達の中で対米自立を主張すると「藤井さんは青いな。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカとうまくやらなきゃいけないじゃないか」と言われてしまいますから。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカの「奴隷」であることが必要であり、「奴隷」と言うのが嫌だから「同盟」と言うんですよね。だから「日米安保」を「日米同盟」と言い始めるわけです。少女売春を「援助交際」や「パ

                                                                            • 民主政の成熟とは - 内田樹の研究室

                                                                              選挙前に「政治への異議を白票で表現しよう」というキャンペーンが目についた。あえて白票を投じることで、「今の選挙制度では、私たちは自分が満腔の賛意を託すことのできる代表を選ぶことができない。私はいま立候補しているどの候補者に投票したい気分になれない。各党は私が投票したくなるような候補者を探してこい。話はそれからだ」という怒りの意思表示ができるというのである。 でも、現実には白票はただの「無効票」である。「現状に対して強い不満を持っている」という意思表示にはならない。「現状肯定」しか意味しない。 「白票を投じよう」と訴えている人たちは政権与党の「隠れ支持者」であるか、民主政における選挙というものの意味を理解していない人たちか、あるいはその両方である。 白票論者たちの勘違いは選挙を「自分の全幅の信頼を託せる人」に一票を投じることであるというふうにひどく浅く定義していることである。たしかに選挙公報

                                                                              • アメリカがもたらすカオス - 内田樹の研究室

                                                                                年初は「今年世界はどうなるか」を予測することにしている。「これから世界はカオス化する」というのが私の予測である。異議のある人はおそらくいないだろう。カオス化を主導するのはもちろん米国である。 ドナルド・トランプは国より憲法よりも彼個人に忠誠を誓う人々を要職に登用して、米国の新しい「国王」になる気配である。 グリーンランドとパナマを領有し、メキシコ湾を「アメリカ湾」と改名し、カナダを併合し、同盟国にGDP5%の国防費負担を要求するなど、ほとんど日替わりで「米国の新しい要求」がニュースになる。超覇権国家がここまで節度を失う日が来るとは誰も想像していなかっただろう。 米国にはさいわいまだ自由なメディアが残っている。だが、米国の媒体の行間に「恐怖感」がここまで露出したことは私が知る限り過去にはなかった。これから先米国はどうなるのか、米国人自身が「どうなるかわからない」のである。 「困惑する」という

                                                                                • 『武道的思考』韓国語版序文 - 内田樹の研究室

                                                                                  みなさん、こんにちは。内田樹です。 これは『武道的思考』という僕の書き物の韓国語版です。原著は2010年に出たので、これは15年前の本ということになります。 さいわい、武道についての原理的な知見を記したものですから、時事性や速報性とは無縁です。それくらいの時間のせいで「時代遅れ」になるということはありません。 僕の考える「武道的思考」というのは東洋に固有の考え方です。ですから、日本だけでなく、韓国でも中国でも、たぶんベトナムやタイにも、このような人間の捉え方は(多少の地域的な違いを伴いつつ)、それぞれの文化の深層に確実に伏流していると思います。ですから、韓国の方でもお読みになれば、「なんとなく、わかる」ということがあると思います。 ただ、韓国ではたぶんそれを「武道的思考」というようなかたちで提示する人はこれまでいなかったのだと思います(韓国の武道界のことは僕はよく知らないのですが、僕のこの