『猫を棄てる 父親について語るとき』(村上春樹/文藝春秋) ほんの100ページ程の本である。しかしこれまで本人からは語られることのなかった、2008年に亡くなった「父のこと」が綴られており、村上春樹の読者、とりわけ“村上主義者”には大きな意味を持つ一冊となるだろう。それほど本書『猫を棄てる 父親について語るとき』(文藝春秋)には、村上作品を読み解くためのヒントが数多くある。 初出は『文藝春秋』2019年6月号だ。その際は「特別寄稿 自らのルーツを初めて綴った『猫を棄てる 父親について語るときに僕の語ること』」というタイトルで、文章の途中に小見出しが付き、幼い村上春樹少年と父が野球をする姿と、猫を抱く春樹少年、現在の肖像の計3枚の写真があった。これが書籍化されるに当たってタイトルが少し短くなり、本文の修正とともに小見出しがなくなり、あとがき「小さな歴史のかけら」が追加されている。写真は台湾の