―今回は、濱口桂一郎さんと萱野稔人さんをお招きし、ブラック企業が問題化している日本の労働社会の問題を切り口に、規制と市場、国家と市場のあり方などにまでお話を伺うことができればと思います。まずは、一人ずつお話をいただき、そのあと討論に移らせていただきます。 濱口:日本の企業ではもともと、目先で労働法が踏みにじられているからといって、ミクロな正義を労働者が追求することは、愚かなことだと思われていました。とはいえ、それは「ブラック」だったのかと言えば、そうではありません。これが、今日の柱のひとつになります。 戦後日本で形づくられた雇用システムの中で、とりわけ大企業の正社員は、ずっとメンバーシップ型の雇用システムの中にいました。そこでは、会社の言うとおり際限なく働く代わり、定年までの雇用と生活を保障してもらうという一種の取引が成り立っていたのです。泥のように働けば、結婚して子供が大きくなっても生活