完全なる孤独が待っていた 「こうやって、家のなかで新聞を読んだりして、じっとしているでしょう。そうすると、庭先でガサゴソと音がする。ネコが雑草のなかを歩く音です。 夜中になると、遠くのほうから鉄道の枕木が鳴る、ゴトンゴトンという音がかすかに聞こえる。JRの中央線を走る貨物列車だと思いますが、うちからは3km近く離れていても、何かの加減で響いてくるんですねぇ。 そういう、昔は気が付かなかった音を聞くたびに思うんです。……ああ、妻がいないんだなぁ、と」 昨年夏に、同い年の妻を胆嚢がんで亡くした、練馬区在住の元小学校教員・関口光男さん(72歳・仮名)は、こう話す。 自宅前を子供たちが歓声を上げながら走っていく。近所の犬が吠えやまないこともある。どこかから夫婦喧嘩の声が漏れ聞こえることも。 だが、家のなかでは、誰の声もしない。 「テレビをつけても騒がしいばかり。たまに音楽はかけますが、やはり人間の