前回、大橋省吾の文武堂は彼の死とパラレルに衰退していったのではないかと述べておいた。それを示すかのように、博文館の『冒険世界』の明治四十四年新刊活躍号巻末の「博文館出版図書抜萃目録」において、これも前回文武堂の出版物として挙げた『玉突術続篇』や『諸鳥飼養全書』も含まれていて、文武堂が大橋の病もあってか、博文館に吸収されたように見受けられる。 この『冒険世界』はさすがに一世紀以上前の雑誌でもあり、背もはがれ、ばらばらになる寸前の状態である。それでもB5判本文一二八ページの奥付は編集兼発行人として押川方存、春浪の本名が記され、また巻頭には彼の読切武俠小説「強者と犠牲」、続いて連載俠骨小説「頑強壮漢」完結編がすえられ、この号が紛れもなく春浪の手になるものだということを教えてくれる。それに博文館ならではの新年号ゆえか、巌谷小波の読物「獅子の眼と人間の眼」、坪谷水哉の随筆「洋行中の大晦日と元日」も掲