乳児用の粉ミルク不足がアメリカで深刻化している。では母乳に戻ればいいのかといえば、話はそう単純ではない。母乳とそれに代わるものの複雑な社会史を歴史家のスティーブン・ミームが概観し、現状を捉え直す。 深刻な粉ミルク不足は一見、母乳を喧伝しているように見える。女性が自然の流れに従いさえすれば問題はまったくないだろうとも考えられるからだ。 この議論の逆を行ったのが、母乳育児をやめるよう女性を説き伏せて粉ミルクを売ろうとしてきた「ネスレ」のような多国籍企業だ。そうした20世紀のマーケティング作戦は、消費者のボイコットと粉ミルクメーカーに対する世間からの反感を受けて終わり、乳児たちが死亡する事態にもつながった。 しかしこの恥ずべき出来事は、それより前の、もっと込み入った歴史を覆い隠してしまう。赤ん坊を母乳で養い育てるという仕事は長いあいだ、母乳か粉ミルクかの議論よりもはるかに厄介なことであり続けてき
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