■安藤展が大阪へ巡回します!詳しくはこちら 建築をぬける風 私の初期の仕事である「住吉の長屋」の核心は、狭い敷地の三分の一の面積を占める中庭の存在にあった。 住まいの中に直に自然が入り込んでくる分、冬の寒さは厳しい。 雨の日には傘をさしてトイレに行かねばならない。 住まい手に不便な生活を強いる提案は、ときに建築家の横暴と批判を受けた。 だが、住まいの何を喜びとするかは、そこで過ごす人間の価値観の問題である。 大阪下町の猥雑な都市環境を前に生活とは何か、住まいとは何かを徹底的に考えた末、私は、自然と共にある生活にこそ人間生活の原点があるという結論に行き着いた。スペース、コストともに極限に近い条件下での都市住宅——だからこそ安易な便利さより、天を仰いで“風”を感じられる住まいであることを優先した。 この小住宅を原点として、今日まで30年間余り建築活動を続けている。年代を重ねるごとに仕事の規模は