アデライード・ド・プラース著, 長谷川博史訳 『革命下のパリに音楽は流れる』 (春秋社, 2002年) フランス革命の時期に、人々は音楽を聴く余裕などあったのだろうか? 本書を読むまで評者は革命期の音楽について何も知らなかったし、また、この時代に多彩な音楽活動が繰り広げられていたことなど予想もしていなかった。実際、フランスの音楽史においても、1764年のラモーの死からベルリオーズがデビューする1830年までの時期は、不毛な「空白期間」と位置づけられるのが一般的なようである(9-10)。 だが、本書の著者、ド・プラースの説明によれば、革命期は音楽の社会的機能が飛躍的に拡大した時期であった。一般人の大部分が読み書きできなかったこの時期においては、例えば、シャンソンが政治的なメッセージを伝達する有力な手段として用いられたのである。1790年5月、「パリ通信(クロニック・ド・パリ)」のコラムには、