至極真っ当なバロック美術の入門書である。もともとバロックは「歪んだ真珠」を意味する言葉であり(パノフスキーの興味深い異説はあるが)、17・18世紀芸術への悪口とも言える言葉であった。美術史家ブルクハルトもその友人ニーチェも、バロックをルネサンスよりも低いものと見なした。バロックをルネサンスとは別の価値を持つ芸術のムーブメントだと規定したのは、ブルクハルトの後任としてバーゼル大の教授となったハインリッヒ・ウェルフリンである。ウェルフリンはルネサンスの均整の取れた芸術とバロックの過剰に美的な芸術を比較しつつも、その双方に別々の価値を与えた。以後、バロック芸術は再評価されることとなり、またモンテヴェルディ~ヘンデルに至る西洋音楽も美術のように「バロック」と呼ばれるようになった。 著者はバロック美術を、映画のような大衆への芸術的な宣伝の先駆と見なしている。宗教改革の「憂き目」に会い、自らの正当性を