孤独というエネルギー糧に プラハの黄金通りにあるカフカの家を訪ねたことがある。いまでこそ観光の名所だが、こんなちっぽけな住まいで、ひっそりとあの不条理小説を書いていたのかと慨嘆した覚えがある。生前に出版されたのは7冊ばかり。大半は1千部単位で、売れ残りも多かった。 カフカの手紙や日記を読めば、いかに苦渋の日々を過ごしていたかがわかる。カフカはまるで絶望の世界の王のように、父との葛藤、不健康、不条理な生活を書きつづる。 絶望の先輩であるキルケゴールは「死に至る病」と断じたが、だからといって、カフカは自殺志願の人ではない。 頭木(かしらぎ)弘樹氏編訳の本著は、そんなカフカの絶望を逆に、ネガティブだからこそ生まれる「力」に変換してみせてくれている。文学や思想の世界に衝撃を与えたカフカ文学への評価とはちがったまなざしで、私たちのすぐそばにある絶望・孤独・不安によりそう彼の言葉が、そこにある。 私の