将棋界の記録を塗り替え続ける藤井聡太四冠(19)の前に、ある数字が立ちはだかっている。八割五分五厘。昭和から平成にかけて活躍した十六世名人の中原誠さん(74)が、一九六七年度に記録した年間最高勝率だ。現役トップで八割を超す成績を収めてきた藤井四冠も、いまだ到達していない。二〇〇八年に病に倒れ、勝負の世界から遠ざかった大棋士は今、後輩たちをどのような思いで見守るのか。川崎市の自宅を訪ねた。 「車いすで失礼させてもらいます」。脳出血の後遺症で左半身にまひがある中原さんは、昨夏に転倒して骨折し、二カ月入院した。十一月末に再び転び、車いす生活に切り替えたという。リハビリをしながら、時々囲碁仲間との対局に出掛ける毎日。将棋は指さないんですか? そう問うと、「私にとって将棋は勝負。趣味にはなり得ないんですよ」としみじみ語った。 宮城県塩釜市出身。五歳で将棋を覚え、十八歳でプロ入りした。デビューは早くな