その都市には起点も終点もなかった。いつもその周囲に群がっているヘリコプターから見ると一つの巨大な塔に似ていて、頂上部は遠近法効果で小さく見え、遠い彼方に消えていた。 ーー「ヴァーティシティ 垂直市」 『方形の円 偽説・都市生成論』は、タイムラプス動画のような小説だと思う。 タイムラプスは、星や雲の動き、生命の栄枯盛衰など、長時間の観察を必要とする経過を早送りして、わずかな時間に圧縮する。タイムラプスを見ることは、人類の時間軸を超えること、人間ではない「なにか」の視点を借りて「世界のうねり」をのぞき見ることだ。 本書の読者は、シャーレ上の菌コロニーを観察するように、人類がこの目で観察できない都市の生成と滅亡を、爆発的な早送りで観察することになる。 方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション) 作者: ギョルゲ・ササルマン,住谷春也 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 201