広島と呉、太平洋戦争の我が国における悲劇の地を舞台としながらも、戦争の悲しみや怒りと同等、いやそれ以上に、そこで繰り広げられていた人々の暮らしの営み、恋、吐く息の温かさ、そういった”戦災”という言葉で全てなかったことにされてしまいそうな、”生”のきらめきを描く事に注力している。だからこそ、『この世界の片隅に』は、人間の固有性にまつわる物語だ、と言える。戦死者○名、といったような記号でのっぺらぼうにされてしまった人々の顔、名前、声、人格、特技etc・・・を鮮明に描き出す事で、その固有性を蘇らす。そうすることでやっと、我々はその悲しみを想像することができるのだ。つまり、本作はクリント・イーストウッドが本年送り出した『ハドソン川の奇跡』という傑作や、奇しくも主演女優を同じくする宮藤官九郎脚本のNHK連続小説テレビ『あまちゃん』(2013)と、そのフィーリングを共有する。あらかじめ、観る者がその結