先に日本では実態以上に格差社会論が流行していると書いたが、繰り返すようにこれは「格差社会」が幻想であるとか検討に値すべき問題でではないとという意味ではない。格差社会論が流行しているという厳然たる現実そのものこそが、まさに問題なのである。つまり、「どうして格差社会になったのか」という以上に、「どうして格差社会論が流行しているのか」という問いのほうがはるかに重要なのだ。格差社会という概念で現代社会の問題を整理されると多くの日本人が納得してしまうという事実、これこそが「格差社会」が抱えている根本的で深刻な問題だと考えるのである。 この理由については、確たる根拠はないが多分つぎのようなことじゃないだろうか。 ①人々の驚きを喚起しやすい(ので本が売れる) 6年前に佐藤俊樹『不平等社会日本−さよなら総中流』という本がベストセラーに近い売れ行きをしたが、私を含めてこの本を完璧に理解できたという人は少ない