エネルギーと完成品 横浜郊外の仕事場にて 僕の知人である建築家が、あるとき一戸建ての注文建築をドタキャンされてしまった。半年間にわたって施主と話し合いを重ね、そのたびに揺れ動く施主の妻50歳代のおんな心をなだめすかし、自ら注文してきたというのにその後も毎週のように住宅展示場へ行っては集めてくるカタログを一緒に見てあげて、そしてついには建築申請が下りて後は施工会社とその現場監督に任すだけという段になって、施主はこう電話してきたのだった。 「妻がまた住宅展示場に行って、ひとりで契約してきてしまったんです……」 図面はすべて仕上がっていたので、せめてその料金くらいはと先方は申し訳なさそうに払ってはくれたのだが、労力をかけた半年間を思うと、その額はほとんどボランティアに等しいようなものだったそうだ。 普通なら(あるいは僕の個人的な感覚や常識で考えるなら)、建て売り住宅よりも注文建築の