あの人たちはいずれいなくなりますから――。民主党政権が2010年に戸別所得補償制度を導入したとき、取材におうじた農林水産省の担当者が語った言葉だ。「あの人たち」は、高齢の兼業農家を指す。農業の現状と未来を考えるため、今回は少し前のことをふり返ることから始めたい。 「どう整合性がとれるんですか」 いまや政権が自民党に代わり、風前のともしびとなった戸別所得補償は、生産調整(減反)に協力することを条件にコメ農家に補助金を出す制度だ。民主党はこの補助金を正当化するため、「稲作は構造的に赤字だから」と説明した。米価下落で稲作の収益性は急速に悪化していたから、多くのコメ農家は当然のように喜んだ。 民主党に政権をうばわれる前、自民党はこれとは違う方向へと農政のカジを切っていた。選別政策だ。都府県で4ヘクタール以上、北海道は10ヘクタール以上の経営に絞り、公的に助成する制度を2007年に始めた。かつてなら