4月末、とある飲食店が廃業した。個人経営の小さな店だ。特定されないよう、店名と売り物は伏せておく。ウチの会社は食材と消耗品を納品していた。オーナーシェフは二代目で、先代から五十年以上も続いている老舗。今の店舗に移ってきたのは三年前で、移転の際に厨房機器を一部刷新したので機器や設備の老朽化が廃業の原因ではない。跡継ぎはなく、オーナー夫婦は六十代前半だが、僕よりも元気なくらいだ。売上や集客も好調だった。だから、廃業の理由をオーナーは明かさなかったけれども、お米や食材の価格高騰しか考えられなかった。 営業最終日、店に足を運んだ。なんとなく気まずい。訪問するたびに入口ドアに「価格改訂のお知らせ」が貼られていて、文面がお詫び調なのを見てなんとも言えない気分になっていた。最後の価格改訂は3月末。お詫びするのも疲れたのだろう、お知らせの文面はなく、ただ黒マジックの斜線で従来の価格を消し、新価格を赤マジッ
