「源氏物語」、ドストエフスキー、魯迅、レヴィ=ストロース、井上ひさし…。ノーベル賞作家・大江健三郎が、人生のさまざまな場面で出会った忘れがたい言葉を読み直し、自前の定義を… 定義集 [著]大江健三郎 『「伝える言葉」プラス』についで、朝日新聞紙上での著者の連載がまとまった。 そこには中野重治や井上ひさし、多田富雄やバルガス・リョサなど、様々な他者の言葉が引用され、意味や用法が“定義”されている。 六年にわたる連載の間、著者はかつての長編エッセイ『沖縄ノート』の記述をめぐって、それが名誉毀損(きそん)にあたるか否かを法廷で争わざるを得なかったわけだが、その折々の主張の核心を読むことも本書の意義であろう。 だが、長年の読者である私にとって何よりも特徴的なのはまず、このエッセイ集が徹底して“若い人たち”に向けられていることである。 「十五年後が生の盛りの、若い人たちに問いかけます」「漢語に慣れて
大正後期、前衛ベルリンから帰国後、美術・デザイン・演劇・映画・文学など、多彩な領域でアヴァンギャルド芸術家として活動した村山知義。彼のエネルギッシュで広範な活動の中から、… 村山知義 劇的尖端 [編]岩本憲児 東京の世田谷美術館で「すべての僕が沸騰する 村山知義の宇宙」展が開かれている(9月2日まで)。年初からの各地巡回展だが、なぜ、今、村山知義なのだろうか。 1920年代のモダニズムが新鮮に見える魅力だろうか。村山という人間の謎と、その芸術の未解明部分の多さに、ひかれるからではあるまいか。何しろ村山は「日本のダ・ヴィンチ」と称された、マルチ・アーチストである。本書は演劇と映画、前衛美術、小説等の分野を、編者を含めて十二人の専門家が、村山の果たした役割を評価し、問題点を要領よくまとめている。 たとえば、國吉和子氏は日本近代舞踊史で欠落している、村山と藤蔭(ふじかげ)静枝の関係を指摘している
精神の病や障害を、脳を切る手術で治そうとする「精神外科」は、過去の非人道的な精神医療において行なわれた過ちにすぎないのか。タブー視され封印されてきた精神外科の歴史をたどり… 精神を切る手術―脳に分け入る科学の歴史 [著]ぬで島次郎 日本では現在、ロボトミーを含む精神外科手術は、行われていない。少なくとも、そういわれている。 ロボトミーは、前頭葉白質切截(せっせつ)術のことで、神経繊維の束を断つことによって、脳の異常を改善しようとする手術だ。ほかにも、前頭葉の一部を切除するロベクトミー、より侵襲度の低い定位脳手術など、さまざまな手法がある。 精神外科手術は、1950年代まではなにがしかの効果がある、と認識されていた。その後、クロルプロマジンなどの向精神薬が開発されて、治療効果のはっきりしないロボトミーは、しだいにすたれた。実は、ロボトミーに対する批判が高まったのは、手術が下火になったあとの6
築四十年を超えた雑居ビルに探偵とも便利屋ともつかない事務所を構える枕木。依頼内容が「うまく言えない」と口ごもる客人と、その心を解すように言葉を継いでいく枕木の会話に、雷雨… 燃焼のための習作 [著]堀江敏幸 〈透明性〉に取り憑(つ)かれた社会では、〈謎〉は解明されるためだけにしか存在しないかのようだ。だから、すぐに正解を欲しがる人には、運河のそばの狭い雑居ビルの4階にあるあの探偵(?)事務所を訪れるのはおススメしない。 何しろ、そこにいる枕木という男は、砂糖とクリープを入れたネスカフェを飲みながら依頼人の話をていねいに聞いてはいるが、哲学的というか雲をつかむような話ばかりするからだ。そこに鄕子(さとこ)さんという感じのいいアシスタントが始終茶々を入れてくる。 ところが、この二人のやりとりはなぜか心地よく、離婚した妻と長男の消息の調査を依頼に来たはずの熊埜御堂(くまのみどう)氏はいつしか来訪
商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書) 著者:新 雅史 出版社:光文社 ジャンル:新書・選書・ブックレット 極めて近代的な存在である商店街は、どういう理由で発明され、繁栄し、衰退したのか? そして商店街の再生には、どういう政策が必要なのか? 膨大な資料をもとに解き明かす、気鋭の… 商店街はなぜ滅びるのか―社会・政治・経済史から探る再生の道 [著]新雅史 商店街と聞くと、我々は日本の伝統的存在だと考えがちだが、本書はその常識を崩していく。 時は大正期。当時の日本は第1次世界大戦の終結と共に、深刻な不況に陥った。各地の農村は苦しみ、離農者の都市への流入が相次いだ。彼らは商売を始め、結果、零細小売業が急増し、過密化する。 困ったのは、消費者の側だった。にわか仕込みの小売商には、専門性がない。粗悪品が横行し、価格も安定しない。そこで、消費者たちは協同組合をつくっ
■社会正義の蹂躙、医師の目で告発 「21世紀のシュヴァイツァー」——しばしばそう喩(たと)えられる著者は、今日、世界でもっとも注目かつ尊敬される人類学者であり医師である。 23歳のとき訪れた中南米ハイチの窮状に衝撃を受け慈善活動に参加、1987年にハーバード大学の同級生ジム・ヨン・キム(今年7月より世界銀行総裁に就任予定)らと著名な非営利組織「パートナーズ・イン・ヘルス(PIH)」を創設した。PIHは貧困地域では絶望視されていた結核やエイズなど感染症の治療で目覚ましい成果を遂げ、現在、世界12カ国に展開している。 1年の半分を大学で過ごし、収入のほとんどをPIHに寄付、ハイチをはじめ世界の貧困地域で無償医療活動に取り組んできた著者。貧しい少年時代からの半生を描いた、ピュリツァー賞作家トレーシー・キダーによる評伝『国境を越えた医師』(邦訳、2004年)は全米ベストセラーとなり、ノーベル平和賞
三つの旗のもとに アナーキズムと反植民地主義的想像力 著者:ベネディクト・アンダーソン 出版社:NTT出版 ジャンル:社会・時事・政治・行政 19世紀末のキューバ独立運動、フィリピンの民衆蜂起、ヨーロッパの反政府活動に、3人のフィリピン人の足跡はどうつながるのか。地球規模の政治空間を詳細に描写し、国家、共同体、… 三つの旗のもとに アナーキズムと反植民地主義的想像力 [著]ベネディクト・アンダーソン 東京・日比谷公園に見慣れない胸像がある。ホセ・リサール。フィリピン独立運動の父として知られる小説家だ。 本書の主人公はリサール。『想像の共同体』の著者アンダーソンが、その続編的位置づけとして描いたのは、フィリピン・ナショナリズムが19世紀末という「初期グローバリゼーション」の中、国際的ネットワークの網目で創造されていくプロセスである。 リサールは20歳の時、ヨーロッパに旅立ち、スペインを皮切り
貧困待ったなし! とっちらかりの10年間 著者:自立生活サポートセンター・もやい 出版社:岩波書店 ジャンル:社会・時事・政治・行政 年越し派遣村以降、野戦病院化したNPO「もやい」は運営の危機をどう乗り越えたのか。設立から現在までの軌跡を紹介し、貧困問題に抗して声を挙げ、ねばり強く行動し続けたたくさん… 貧困待ったなし!―とっちらかりの10年間 [編]自立生活サポートセンター・もやい この社会の貧困の問題に最底辺のところで対応してきた支援グループの、あまりに率直な、そして考えぬかれた地声の中間総括である。 所持金・平均500円で、何もかもが立ちゆかなくなった人びと。その人たちのための定例相談会と、ホームレスの人にとって最難関の問題であるアパート入居時の連帯保証から始めた活動は、やがてネットカフェ難民、虐待から逃げてきた人など相談者も激増して「野戦病院化」するとともに、個人の自由な集まりか
夢よりも深い覚醒へ 3・11後の哲学 (岩波新書 新赤版) 著者:大澤 真幸 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット 「不可能性の時代」に起きた3・11の2つの惨事は、私たちに何を問うているのか。圧倒的な破局を内に秘めた社会を変えていくための方法とは。オリジナルな思考を続ける著者渾身の根… 夢よりも深い覚醒へ―3・11後の哲学 [著]大澤真幸 この素敵(すてき)な題名は見田宗介の言葉だという。悪夢から現実へ覚醒するのではなく、夢により深く内在することで覚醒する、という意味で使われている。三・一一の出来事は各々(おのおの)の生の中に深く沈潜し、意識無意識を総動員しながら言葉を探ることでしか、乗り超えられない。あるいはまた生き方を変えることでしか、見えない。本書は、自分の中で何度も反芻(はんすう)してきた事柄を、著者の言葉で確認しながら読むという、そういう本なのだと思う。 著者は
だらだら走り、のんびり泳ぐ。がんばらないスポーツを続けて30年。ちょっと気持ちのいい運動習慣病から贈られた、小さな幸せへのヒント。からだという「大きな理性」によって書かれ… 下り坂では後ろ向きに 静かなスポーツのすすめ [著]丘沢静也 ただのハウツーものではない。「より速く、より強く、より高く」という競技スポーツから脱出しよう、という価値観の転換を提起している。競技スポーツは競争社会における仕事と同じ文法であって、「静かなスポーツ」は生命・生活・人生の文法である、という考えだ。三・一一以前にはなかなか言えなかった思想が次々に表明されている。実践し考えてきたことが、ようやく共感を得るようになったからであろう。本書もその一冊、と見た。 ハウツーものとしても充分に役立つ。大事なのは回数や距離ではなく、時間を区切ることだという。泳いでも走っても三十~四十分でやめましょう、なぜなら人生は短いから、と
なぜメルケルは「転向」したのか ドイツ原子力四〇年戦争の真実 著者:熊谷 徹 出版社:日経BP社 ジャンル:社会・時事・政治・行政 なぜメルケルは「転向」したのか ドイツ原子力四〇年戦争の真実 [著]熊谷徹 福島原発事故の発生から3カ月後、ドイツ連邦議会は、原子力法の改正案を可決し、遅くとも2022年末までに原発を完全に廃止することを決めた。なぜ、ドイツは脱原発への道を開くことができたのか? 本書は、原発をめぐる過去40年間のドイツの歩みをたどりながら、右の問いへの答えを示す。 東独出身の首相メルケルは、かつては研究所に勤務する物理学者だった。ドイツ統一後に政界に転じ、環境相を務めたが、原発は必要だと考えていた。そのメルケルが福島原発事故のあと、自分の考えは誤っていたと率直に認め、脱原発に「転向」した。「日本ほど技術水準が高い国も、原子力のリスクを安全に制御することはできない」のだから、と
■世界の「普遍」を知るために 今年の新書大賞を受賞した本書は、社会学者2人がキリスト教の基本概念を快刀乱麻を断つがごとくばっさり構造化して説明している。たとえば奇蹟(きせき)とは何か。世界はすみずみまで合理的で誰も自然法則を動かせず、ただ神だけが法則を一時停止して奇蹟を起こせる。つまり世界の合理性が前提にあるからこそ、奇蹟の概念が成り立つのだという。世界に合理性を求めない日本の伝統とは前提が違う。 本書が売れている背景には、二つの要因があると考える。 近代以降の日本と国際社会の戦いは、言ってみれば普遍をめぐる戦いだった。孤立した島国に住む日本民族には、世界と勝負できる普遍性がない。だが戦後の高度成長では日本のものづくりが世界市場を席巻し、日本の生んだVHSやCDといった規格が世界標準へと達した。しかし昨今はすっかり失速し、ガラパゴスという流行語が陰鬱(いんうつ)に日本を覆っている。普遍の獲
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