その年、僕は体を悪くして数週間の入院を余儀なくされていた。 重病ではなかったため気楽な入院生活、とはいえ検査検査で結構忙しい毎日だった。 入院から数日して、教授回診があった。僕はドラマや映画の教授回診シーンしか 知らなかったので、いかにも偉そうな教授が大勢の医者を引き連れ、 患者の前で担当医を怒鳴り散らす、みたいなものを想像して少し緊張して待っていた。 「おはようございます!」突然の挨拶に驚いた。大声ではないが腹に響く声。腹に響くが爽やかな口調だった。 ここ数日、いや数年聞いたことのない挨拶だった。 決して、沈黙ではないというだけのバイト君が発する小声の「おあようざいまーす」ではない。 決して、でかい声を出すことだけに価値を持っている体育会出身営業さんの「あざーす!!」ではない。 それは病人の弱った体を労る優しさと、病気で萎えがちな患者の魂を力強い腕で揺さぶり励ます強さを 兼ね備えた、不思
![教授回診](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/b1638cdb5807a4788e4ba3c1109a984166e095fc/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fanond.hatelabo.jp%2Fimages%2Fog-image-1500.gif)