I 社会の分断化 近代の政治思想は、国民社会をセキュリティの単位として位置づけながら、そのセキュリティの幅をしだいに拡張してきた。近代初期においては、社会契約論の思想に見られるように、生の保障の力点は物的な安全( phisical security )に置かれていた。その後、「生の保障」が国家安全保障( national security )に加え「社会保障」( social security )の次元をしだいに厚くしていったことは、たとえばM・フーコーが「死の権力」から「生の権力」への権力のモードの変容──「死なせるか生きるままにしておという旧い権利に代わって、生きさせるか死の中へ廃棄するという権力が現われた」( Foucault 1976: p.181 )──に沿って描きだしたとおりである。生−権力は、個々人の生命と集合体(社会体)の生命との間に、前者を増強することによって後者を増強