1.師走の六本木の夜風に背を丸めたあの日 それは、私が財務省で2年目の官僚として働いていた2007年12月のことだった。コロナ禍の今とは違って、街はクリスマスを待つ活気に満ちていた。大学時代に仲良かった友人たちと久しぶりに忘年会をしようと集まった。彼らは当時、外資系の証券会社、大手弁護士事務所、そしてコンサルティングファームで働いていた。 そのうちの証券会社で働く男性は、持ち前の幹事気質を発揮して、最近お気に入りの「カジュアルなお店」を予約し、メールで送ってくれた。私はそのリンク先を開いて「予算10000円~」に愕然とする。お店のある西麻布という場所は、どの駅からも相当に歩く。おそらく、彼は私が徒歩で来ることを想定していない。六本木駅からの下り坂をぺったんこ靴でダッシュして、お店に入る直前にヒールに履き替える。お財布の中には、お昼休みにお向かいの金融庁のATMでおろしてきたお金が入っている