病院のベッドの上で最後の時を迎える人は毎日数え切れないくらい沢山いるが、病院の床下で人知れず息絶える人は極めて珍しい。いくら死体を見慣れた医療スタッフでも、床下にミイラが見つかればびっくり仰天するだろう。 遺体はミイラ化していたものの、生前の特徴を保っていたようだ。ナースたちは、その男性に見覚えがあった。クリニックに入退院を繰り返してアルコ−ル依存症の治療を受けていた58歳の男性に違いなかった。 彼は、今年の10月に入院中の病室から忽然と姿を消したのだった。行方不明者として捜索願が出されていた。クリニックのスタッフも誰しも、彼が脱走して姿をくらましたと思っていたはずだ。まさか、病院の床下で息絶えていたなんて想像だにしなかったことだろう。 彼がどうして床下の狭い隙間に潜り込んだのかは謎である。病棟には地下室があり、跳上げ戸を通じてその中に入れるようになっている。地下室から出られなくなり、床下