ミロシュ・フォアマンの新作『マン・オン・ザ・ムーン』に描かれるのは、実在のコメディアン、アンディ・カフマン(1949~1984)の物語だ。そのアンディは、コメディアンというよりは、むしろそうみなされることを最大限に利用し、独自の世界を作ってしまった芸人というべきかもしれない。彼は必ずしも芸によって、笑いをとったり愛されることを求めていたわけではないからだ。 たとえば彼は、まったく似ていないカーター大統領の物真似などで観客を戸惑わせた後で、エルヴィスの物真似を見事にきめ、喝采を浴びる。そんな時彼が本当に求めていたのは、喝采よりも観客の戸惑いだろう。さらに彼は、観客に紛れたさくらに自分の芸に対する因縁をつけさせたり、別の芸人に変装して客にからんだりして、喧嘩をはじめる。観客はそれが演出なのか判断しかね、緊張を強いられる。 そしてついには、テレビのトークショーで乱闘騒ぎを引き起こしたり、男女無差