なぜか人は岩石に魅せられ、そっと触れてみる。湯殿山神社(山形県)の御神体、神倉神社(和歌山県)のゴトビキ岩、玄界灘の孤島・沖ノ島(福岡県)に立つ巨石群などを前にすると、信仰心のない私でさえ神々しさを感じてしまう。そういえば、古代の明日香はさまざまな形に加工された岩石が立ち並ぶ都だった。 本書の著者は、そうした岩石の魅力に取りつかれた研究者のひとりである。すさまじい執念とでも形容するしかない態度で岩石に向き合うが、単なるマニアでもおたくでもない。あくまでも冷静に、研究対象として岩石祭祀(さいし)を分類し、それを通して人間の心に向き合おうとする。 柳田國男、折口信夫、鳥居龍蔵、大場磐雄、野本寛一ら錚々(そうそう)たる民俗学者や考古学者による岩石信仰の研究史を批判的に検証するところから本書は始まる。そして今までの研究を修正するために、概念規定の明確化を提唱する。岩石が相手だけに、著者の研究はきわ