副題は「労働市場の変容と社会保険」。この書名と副題から「非正規雇用が増える中で社会保険がセーフティーネットの役割を果たせなくなってきたことを指摘している本なのだな」と想像する人も多いでしょう。 これは間違いではないのですが、本書は多くの人の想像とは少し違っています。「日本の社会保険の不備を告発する本」とも言えませんし(不備は指摘している)、「非正規雇用の格差を問題視し日本的雇用の打破を目指す」といった本でもありません。 本書はさまざまな実証分析を積み重ねることで、この問題の難しさと、改革の方向性を探ったものであり、単純明快さはないものの非常に丁寧な議論がなされています。特に仕事と子育ての両立支援を扱った第3章と、若年層への就労支援などを論じた第6章、最近流行のEBPMについて語った第7章は読み応えがあります。 目次は以下の通り 序章 日本の労働市場と社会保険制度との関係 第1章 雇用の流動
このサイトでは、 山口慎太郎『子育て支援の経済学』 (2021年1月発売) の関連情報や補足資料、授業用スライド等を提供しています。 ■第64回(2021年度)日経・経済図書文化賞受賞! 総評(吉川洋・立正大学学長) 受賞作品書評(八代尚宏・昭和女子大学特命教授 日本経済新聞での発表記事(2021年11月3日付) ■メディアでの紹介・書評 日本経済新聞「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」第9位に選出(『日本経済新聞』2021年12月25日読書欄掲載)。 週刊ダイヤモンド「経済学者・経営学者・エコノミスト128人が選んだ2021年ベスト経済書」第9位に選出(『週刊ダイヤモンド』2021年12/25・2022年1/1新年合併号掲載)。 「書評」(安井健悟氏)『日本労働研究雑誌』2021年7月号 「読書」(橘木俊詔氏)『公明新聞』2021年4月19日 「Book Review」(井堀利宏氏)
ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、都心部のオフィス街の人出は再び減少傾向にある。ビジネス書の売れゆきもさえない。そんな中、書店員が注目するのは、1996年から今日まで四半世紀の日本銀行の動きを丹念に追いかけた経済記者による迫真のドキュメントだった。 「試練と苦悩の四半世紀」に焦点その本は西野智彦『ドキュメント日銀漂流』(岩波書店)。著者の西野氏は時事通信社を経てTBS記者となり、日銀や首相官邸、大蔵省(現財務省)、自民党などの取材を担当、金融動乱の時代を間近にみてきた経済記者だ。その著者による「日銀の『試練と苦悩の四半世紀』をドキュメントしようという試み」が本書だ。 プロローグは96年3月、日銀本店の一室から始まる。じっと考え込む男は福井俊彦副総裁(当時
「雇用が不安定な者ほどセーフティーネットも脆弱」を指摘するのが酒井正先生の『日本のセーフティネット格差』である。この問題を扱った本が日経・経済図書文化賞に選ばれたことは、長年、それを解決すべく具体策を提案してきた本コラムとしても、大変、喜ばしく思う。酒井先生が言われるように、「非正規への適用拡大は、ファーストステップではあっても、セーフティーネットを充実させるとは限らない」というのも正に然りである。しかし、それすらも遅々としているというのが辛い現実だ。 ……… 社会保険は、保険料と給付が対になっているので、納付の期間と総額が限られる非正規の給付が乏しいものになるのは、仕方のない面がある。したがって、この関係を無くせないにせよ、どれだけ緩められるかが、目指すべき未来の「第二のセーフティネット」の形ということになる。具体的には、保険料をどれくらい、どのような形で公的に補助するのが良いかが焦点と
社会のなかのさまざまな危機について、法学、政治学、経済学、社会学の研究成果に基づく考察を通じて、人びとが危機とその対応に対する不安に向き合うための新たな視座の提供を目指す。本巻では、危機対応のしくみを創ることに関わりのある、法律、制度、価値、行動にまつわる危機について考える。 ※UTokyoBiblioPlazaで自著解説が公開されています。 ※「危機対応学」全4巻のパンフレットをこちらからダウンロードできます(クリックするとPDFが開きます) はしがき(飯田 高) 第I部 危機と法律 第1章 憲法と危機――非常事態条項をめぐって 【事実・言説】(林 知更) 一 はじめに――「危機」という語り ニ 非常事態条項の規律モデル 三 法治国家と非常事態 四 おわりに――限界状況の手前で 第2章 契約上の危機と事情変更の法理――債権法改正審議の帰趨とその諸文脈 【事前・事後】(石川博康) 一 はじ
百年戦争のヒロイン、ジャンヌ・ダルクの騎馬像はフランス各地に建つ。左はオルレアンのマルトロワ中央広場、右はパリのピラミッド広場。 フランスを主戦場として英仏が攻防を繰り広げた百年戦争(1337~1453)。誰もがその名を知る戦いだが、肝心の中身となると「たしかジャンヌ・ダルクが活躍したはずだけど……」といった断片的知識にとどまるのではないだろうか。『百年戦争 中世ヨーロッパ最後の戦い』でこの長くて複雑な戦いを描き切った佐藤猛さんに話を聞いた。 ――先生のご専門は。 佐藤:ヨーロッパ中世が終わる頃、14~15世紀フランスの政治史・制度史です。パリを拠点とする王権が大小様々な地方をどのように治めたかについて研究してきました。諸侯と呼ばれる、王に次ぐ地位や支配権を持った貴族層に関心があります。各地に代々根を張る諸侯とともに、時代を経るごとに王族出身の諸侯が多くなります。 イングランド王家は11世
『キャリアデザインマガジン』12月号(通巻145号)に寄稿した書評を転載します。内閣府の「人間中心のAI社会原則」は(タイトルどおり)「AIは道具」と断言していますし、最近人工知能学会などが発表した「機械学習と公平性に関する声明」も「機械学習は道具にすぎません」と言い切っているわけですが、しかし現実には「人でも物でもないAI」といったものが登場しないという保証もありません。想像をたくましくすれば、選挙以外の方法で指導者が選ばれている一党独裁国家なんかだと一定以上の国家指導者層が軒並みAIになってもあまり違和感なく世間は動くのではないかなどと妄想しなくもない(本当に人間並みAIができて選挙権を持つようになれば選挙で選んでもそうなるかも?)。 なお本書では「人でも物でもないAI」を考える補助線として動物倫理学が参照されており、私は動物倫理学については「まあクジラやイルカは人間と同じだと考える人
全体主義は否定すべき悪であるのか? 本書『政治の理論』に至るまでの私の仕事を振り返ってみるならば、まず1999年の『リベラリズムの存在証明』という本があった。あの本のライトモチーフはひとつには”Taking Libertarianism seriously”であり、直観的には荒唐無稽だが、すっきりと明快であるがゆえになかなか決定的な論駁が難しく、思考実験としては大いに魅力的であるリバタリアニズム、最小国家論に対して普通のリベラリズムをどこまで防御できるか、という問題意識がそこにはあった。 今一つのモチーフとしては、経済学における「ケインズ経済学のミクロ的基礎付け」とのアナロジーで言えば「全体主義のミクロ的基礎付け」とでもいうべきものであり、合理的選択理論を根底に置いた考え方で、どこまでいわゆる全体主義というものを理解できるか、またそれに抵抗する方途としてはどのようなものが考えられるのか、と
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