筆者は、最近のいくつかの小論で、「〈現存した社会主義〉の社会科学」という視角を提示してきた(1)。まだ思いつきの域を出ず、今後練り直していく必要を感じているが、ここでは、そのための準備作業の一つとして、〈現存した社会主義〉の政治学へ向けた試論を、全体主義論再考という文脈の中で提出してみたい。 近年における全体主義論リヴァイヴァルの徴候については、旧稿「社会主義と全体主義」(2)でも触れたが、この傾向はその後も続いている。それにはそれなりの背景があり、決して単純に無視することはできない。そこには、現状を踏まえたある種のリアリティーがあることは確かだからである。 しかし、同時に、リヴァイヴァル論者の議論には、現にソ連その他の社会主義が崩壊したという既成事実を「勝てば官軍」的にとらえ、「勝利」の勢いに乗って、はしゃぎすぎているところがあり、それをそのまま受け取るわけには行かない。このことは、たと