昨年の暮、神保町の古書店で一冊の詩集を購った。ある詩人の第二詩集で、わたしは学生時代にその詩人の第一詩集を手に入れた。たびかさなる引越しにも紛れずそれはいまも手許にあり、三十年ぶりに詩人の健在ぶりを知ることになったのだが、その詩集には思いがけない附録がついていた。函から取り出した詩集の表紙をめくると一枚のはがきが挟まっていたのである。はがきには、その詩集のなかのいくつかの詩の題名を挙げ、それらが気に入ったと書かれていた。半分盲目にひとしいので乱文を容赦されたいと書かれた末尾の言葉どおり、細い万年筆で書かれたとおぼしい筆跡は判別もあやういほど頼りなげに歪み、斜めにかしいでいた。そして最後に署名があった。表に宛名は書かれていなかった。はがきの書き手は投函するつもりではがきを挟んでおいたことを失念し、おそらくは家族が他の不要の書籍といっしょに処分したのだろう。詩集が刊行されてから三年が経っていた