『幽』怪談文学賞優秀賞受賞作。 本誌の選考会で、鏡花だ戯作だ寺山修司だと騒がれていたので俄然興味をひかれました。 どれどれと思いながら一読。のっけからまさに鏡花。ここまで鏡花だとは思わなかった。わくわくしながら読み始める。 デートクラブのビラ配り。これにまず感心。現代を――平成の世を鏡花の文体でちゃんと構築できるんだと嬉しくなってしまいました。そのまま最後まで行ってくれればよかったんだけど、残念なことに途中からはさすがに平成とは言い難くなっちゃうんですよね。せいぜい昭和後期か。 別に現代を鏡花文体で描くのが主眼という作品ではないので、瑕瑾ではないのだけれど。 鏡花作品のすごいところは、怪異と日常をまったく同じ距離感で描くところです。主人公が怖い体験をした。次の行ではすでに、それが怪異だ、ということが事実として書かれてる。現在の普通の小説であれば、たとえホラーでもそれなりの世界設定やら作品内