古びたレコードに耳を傾けるひとりの女性。彼女は、その存在さえほとんど知らされていなかった伯父・村野弘二の調査を行う。音楽学生だった伯父は学徒出陣で亡くなっており、遺品はほとんど残されていない。彼女はやがて没地フィリピンに向かう。一方、二人の音楽学生が村野の遺したオペラ《白狐》の演奏に取り組んでいく。 2015年の夏、「戦後70年」が大々的に報道されるなか、明治を代表する思想家・岡倉天心(1863-1913)の唯一の戯曲『白狐』を作曲しながら、学徒出陣で亡くなった音楽学生・村野弘二の記事が毎日新聞の一面に掲載された。村野は出征前、作曲家の團伊玖磨(1924-2001)や大中恩(1924-)らとともに東京音楽学校(現・東京芸大)で作曲を学び、オペラ《白狐》を作曲する。傑作と周囲から認められつつも、未完のまま学徒出陣でフィリピンに出征し、1945年8月21日、同地で拳銃自決、22歳で人生を閉じた