悲しい夢を見て目が覚めた。自分の不注意で、家族を失う夢だった。無防備に、私にすべてを委ねる穏やかないのち。幾度その名を呼んでも、もう取り返しがつかない。 飛び起きざまに、胸元のすこやかな寝息を確かめる。夢でないことを確かめるべく、海の向こうのこの子の父へもメールする。まだ動悸が収まらない。イイ年こいた大人が自分の妄想に誰かをつき合わせるなんて、反則だとわかっている。けれど、そうせずにいられなかった。 この手の幻想ほど恐ろしいものはない。おとなになってみると、わかる。夢でよかった、と大袈裟でなく胸をなで下ろす。ありえないことじゃない。だからこそ、この安堵の瞬間(とき)が永遠に訪れなければ、否、その妄想だけでも自分は狂ってしまうだろう。 枕元の時計が04時30分を指している。不意に腹が鳴った。彼女の安眠を妨げぬよう、そっとベッドを離れ、冷気がうずくまるキッチンへ足を踏み入れる。 ―――白々と戸