日本経済が過去約10年間にわたり低迷してきたことはご承知の通りであり、内外の分析結果や統計を見てみても、1990年代以降、実質GDP成長率や、労働面では人・時間の投入成長率や生産性、さらに資本面でも収益率や民間投資が、先進国に比べ落ち込んでいることが明らかになっています。 すでに一定程度の教育水準を達成し、資本蓄積がこれ以上あまり見込めない日本の場合、国の豊かさを向上させるカギは全要素生産性(TFP)にあるといえますが、こうした経済全体の停滞についても全要素生産性の下落が背景にあると指摘されています。たとえば90年代、日本におけるTFPは約2%下落したとの結果が出ていますが、この事実はそれ自体がGDP成長率を2%押し下げるだけでなく、民間の設備投資を減らすというマイナス効果ももたらすため、全体でGDP成長率を実質3%程度低下させたと推測されます。 この状況を産業別かつ年代別にみていくと、図
近年、日本企業の生産性に関する研究が注目を浴びている。2002年、東京大学の林文夫教授とノーベル経済学賞受賞者のエドワード・プレスコット教授は、90年代の日本経済の停滞が生産性の低下にあるとする論文を発表した。この林・プレスコット論文を契機として、日本経済の生産性への関心が急速に高まることになった。さらに、ここ数年は、企業統計の整備に伴い、生産性研究はマクロ・産業レベルから企業レベルへと広がりを見せている。この企業レベルの生産性研究では、数万という企業情報と最先端の計量経済学の手法を駆使することで、これまでのマクロ・産業レベルの研究では明らかにされていなかった新事実が次々と報告されている。以下、本コラムでは、90年代の日本企業の生産性に関する最新の研究成果の一部を紹介しよう(注1)。 平均的に見た場合、外資系企業は、国内企業と比べて生産性が高い。この事実は、深尾京司氏(ファカルティフェロー
松尾匡のページ 07年2月19日 山形・池田「生産性論争」への今頃のコメント 経済学の世界ではクルーグマンの翻訳で知られる山形浩生さんが、ご自身のブログ「経済のトリセツ」で2月11日に展開した議論 http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20070211 に対して、翌日、上武大学大学院客員教授の池田信夫先生が、ご自身のブログ「池田信夫blog」で批判を行った。 http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/cd4e52fd7cca96ac71d0841c5da0cb75 で、そのあと数日ブログで反論の応酬が続き、池田先生のブログに一日百件ものコメントが寄せられたり、これを題材にしたウェブ記事が次々立ったりと、ブログ界が大変盛り上がったようだ。 しかしこれは、山形さんが言いたい本筋とは関係のない部分での超アバウトな表現
格差シリーズの続きとして、最近話題になったバーナンキFRB議長の所得分配についての論文を紹介しておこう。これは最近アメリカでも所得格差が拡大している原因を考え、政策的な対応を考えたものだ。要旨は次の通り:先進国の平均所得は戦後一貫して上昇しており、最低所得も上昇している。しかし所得格差は、戦後は縮まっていたが、ここ30年は拡大している。この期間に、アメリカの下位10%の所得は4%しか上がらなかったが、上位10%の所得は34%上がり、その結果、上位1%の所得は全所得の8%から14%に拡大した。さらに大卒のホワイトカラーと高卒のブルーカラーの賃金格差は、38%から75%に拡大した。 格差拡大の最大の原因と考えられるのは、ITによる生産性の急速な上昇である。ITの物理的な性能は、「ムーアの法則」として知られるように指数関数的に上がっているが、その経済的生産性はユーザーの技能と補完性をもつため、
2007年02月12日11:30 カテゴリValue 2.0Money 生産性より消費性 そしてその社会の平均的な生産性というのは、何が決めるのだろうか? 山形浩生 の「経済のトリセツ」 Supported by WindowsLiveJournal - 生産性の話の基礎 賃金水準は、絶対的な生産性で決まるんじゃない。その社会の平均的な生産性で決まるんだどう考えても、「その社会の総消費量で決まる」という結論になると思う。 ちなみにここでは、貯蓄も消費に含めている。お金の行き先を決める行為は、すべて消費ということにしている。 なぜ生産するかといったら、消費するためだ。使いもしないのに作ってもしょうがない。たとえ本を20冊翻訳しても、誰も買ってくれなければ「生産」とは見なされない。読まれるでも「積読」されるのでもどちらでもいいけれど、とにかく買ってもらわなければ話にならない。一冊あたり50万
「ゴッドランドの経済学」で生産性の話を書いて、インドから戻ってきてみると反応がいろいろついてた。この連載はその意味で毎回楽しいね。もちろんそれが楽しいのは、読者のみなさんが有益で生産的な議論をいろいろ展開してくれるから……ではない。はてなブックマークにしてもトラックバックにしても、多くは単なるバカと無知の表明にすぎないものばかり。ぼくがまったく考えなかったような論点を指摘してくれるものなんてほとんどありゃしない。きみたち、ワタクシを震撼させるような議論ができないのかね!! ……って、できるわけがない。だってぼくが書いていることは経済学のほんの基礎の基礎で、考えられる反論や揚げ足取りはもう過去 100 年以上で出尽くしてるんだもん。でも、それはそれでありがたいのだ。というのも、何をぼくが説明しなきゃならないかがかなりよくわかるし、その説明内容がかなり基礎的なものでいいことが見えるからだ。 そ
「ITとインターネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」 前号で詳述した将棋プロ棋士・羽生善治さんのこの言葉は「インターネットの本質」を実に鋭くえぐったものだ。この「高速道路の整備と大渋滞」は、インターネットの普及に伴い、ありとあらゆる世界で起きつつある現象なのである。 これでもかこれでもかと厖大な情報が日々インターネット上に追加され、グーグルをはじめとする恐ろしいほどに洗練された新しい道具が、片っ端からその情報を整理していく。いったん誰かによって言語化されてしまった内容は、インターネットを介して皆と共有される。よって後から来る世代は、ある分野を極めたいという意志さえ持てば、あたかも高速道路を疾走するかのように過去の叡知を吸収し、もの凄いスピードで「プロの一歩手前
政府は「成長力底上げ戦略構想チーム」をつくり、「結果平等」を求める民主党に対抗するという。これは先日の記事にも書いたとおり正しい方向だと思うが、問題はこの「成長力」の中身だ。具体策として出ているのは、中小企業対策や子育て支援など、選挙目当ての補助金バラマキである。 成長力を回復するには、「失われた10年」に成長力が低下した原因を検証し、その教訓に学ぶ必要がある。それについての実証研究の結論は、普通の日本語でいうと簡単だ。不況の原因は、企業収益が落ちたことである。それを集計したものがTFP(資本・労働の投入を上回る生産性)だから、収益力が回復しない限り、マクロ政策や補助金で成長力を高めることはできない。 企業収益の低下した原因は、二つにわけることができる。第1は、資本効率の低下だ。特に不動産・建設業では、バブル崩壊によって業界全体でキャッシュフローが赤字になるという状態が続いたが、こうし
不二家の社長が辞任を発表した。だれもが思い出すのは、5年前の雪印の事件だろう。あのときも社長が辞め、スーパーから商品が撤去されて、雪印は倒産寸前まで行ったが、その後どうなったかはあまり聞かない。実は、今では雪印のROE(株主資本利益率)は14.8%と東証の平均をはるかに上回り、その株価は事件前の水準に戻っているのだ。 柳川範之『法と企業行動の経済分析』は、雪印の事業再生の過程をあとづけ、破局的な事件がかえって思い切ったリストラを可能にし、本業に特化することによって資本効率が向上したことを指摘している。Fukuda-Koibuchiは、長銀の破綻後の取引先を追跡し、資産の厳格な査定によって多くの企業が破綻したが、新生銀行に債権が引き継がれた企業の株価は大きく上がったことを示している。これに比べると他の銀行の取引先は、破綻も少なかったが、業績の向上も起こらなかった。 不二家のように業績が長
2006年09月02日22:15 カテゴリOpen Source サルでも生産性が上がるオープンソース というわけで、続き。 404 Blog Not Found:1998年じゃ遅すぎる 次のentryからそのあたりを考察していくことにしよう。 主題は、こちら。 「Googleはオープンソース組織を内部に持つ営利企業」---梅田望夫氏が語るシリコンバレー精神とオープンソース:ITpro 謎のひとつは「スケジュールもなければロードマップもない。てんでばらばらなのに,非常にクオリティの高いソフトウエアが生まれてくる」(吉岡氏)という,オープンソース開発モデルの生産性の高さだ。 なぜ、オープンソースの生産性は高いのか? 身も蓋もない答えを言ってしまおう。 生産性が充分高いプロジェクトしか手をつけられないからだ。 「生産性が充分高い」とはどういうことか、というと、「すでに他でうまく行っているプロジ
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