本発表では,因果性の哲学において〈因果選別〉(causal selection)と呼ばれている問題を,特に社会科学の哲学の観点から論じる.因果選択とは,個別的因果帰属において,複数の原因(候補)を同定した後,さらに何らかの基準によってそれらを選別し,いくつかの要素に特別な地位を付与するような判断・活動を指す.たとえば,或る森林火災の原因を求める際,落雷と酸素(の充満)という2つの要素が,いずれも「それがなければ火災は起こらなかっただろう」という反事実的条件法によって原因(候補)として同定される場面を考えてみる.ここでは,すでに或る条件(反事実的依存)によって原因が同定されているが,我々はさらに次のように言いたくなるかもしれない.すなわち,「落雷と酸素はいずれも或る意味で原因ではあるが,よく詳しく言えば,酸素は背景条件であり,本当の意味で原因だと言えるのは落雷のみである」と.このように,或る