SONG | 10:44 | それは突然あらわれ、彼女を連れていった。「私が悪いの」が口癖のようなひとだった。どうして悪くない私をおしえてあげきれなかったのか。すてきな笑顔とやさしさが、かけがえのないプレゼントであったことを伝えきれなかったのか。ただそのことが悔やまれてしかたない。おふくろが、認識能力を失っていることは幸いであった。午前1時半から丑三つまでのあいだ、どのように彷徨し、なにを彼女はみたのか。ことばの深いところの意で、魔が差し、疲れ果て、彼女はひとり旅立った。「バカじゃない」とつぶやく。泣きながら「ごめんね、ひーろ」と声にはならない声をあげる。小さくなっていくすがたをみながら、しょうがないなと笑ってみせる。もういいよ。疲れたろ、ゆっくり休みな。生きていくのは楽ではない。たいへんなことだといったほうがいいんだろう。でも、そのたいへんさを超えて、あなたの笑顔とやさしさは価値あるもの