苦学と立身と図書館 パブリック・ライブラリーと近代日本 [著]伊東達也 「みんな脇目もふらず一心不乱に勉強してゐる様子だった。白鉢巻(はちまき)などしてゐるのも何人かゐた。受験生が圧倒的に多いらしかった。(中略)誰の目にもつく所の壁に、小さな字を一ぱいに書き込んだ短冊型の紙が何枚かぶら下がってゐる。(中略)それは来館者同士がおたがひに問題を提出し合ったり、解答し合ったりしてゐるのだった。」 これは本書で引用されている、図書館内の様子を描いた1919年刊の文章の一部である。明治から大正にかけての日本の図書館は、資格試験や入学試験の合格を目指して学習する受験生たちが利用者の中で多くを占める「勉強空間」と化していた。それは、維新直後の岩倉使節団がアメリカで目撃した、地域社会のすべての人々に開かれたものとしてのパブリック・ライブラリーとはずれてゆく図書館の姿だった。 本書は、こうした「勉強空間」と