4年前に買ったのと同じ本棚が届いて、散らかった本を本棚に並べていると、以前になくしたと思っていた、「喜嶋先生の静かな世界」を発見して再読していた。 主人公は、研究室配属された大学生で、恩師である喜嶋先生との研究に没頭した生活が描かれている。短く言い切る文を連ねた文章で、ひとつひとつの描写ははっきりしている。ただし、全体的な読後感はどこか抽象的でさらりとしている不思議な読み味の物語だと感じさせる。 初読のときから記憶に残っているのは、物語の最後の一節だ。主人公は順調に博士号をとり、結婚し、そのまま大学に務め、助教授にまで出世する。そしてあるきっかけからふと以下のような独白を始める。 僕はどうだろう? 最近、研究をしているだろうか? 勉強しているだろうか? そんな時間が、どこにあるだろう? 子供も大きくなり、日曜日は家族サービスで潰れてしまう。大学にいたって、つまらない雑事ばかりが押し寄せる。
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