日本には制度上、移民はいない。しかし、悪名高い、技能実習生制度のもと、ベトナム人だけでも実習生は20万人近く。その一部は低賃金や劣悪な環境に嫌気がさして逃亡、不法滞在者の「移民」として日本のアンダーグラウンドを形成している。かつて中国人が主役だったアンダーグラウンドを、今、占拠しているのは、無軌道なベトナム人の若者たちなのだ。 ここでは、大宅賞作家・安田峰俊氏が「移民」による事件現場を訪ね歩き、北関東に地下茎のごとく張り巡らされた「移民」たちのネットワークを描いた渾身のルポ『北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』(文藝春秋)より一部を抜粋してお届けする。(全4回の3回目/4回目に続く) 日暮里の中華料理店で話を聞いたベトナム人女性・ユキ 2022年6月10日、日暮里の中華料理店でマスクを外したユキは、口元のひどい乱杭歯(らんぐいば)が印象に残る女性だった。