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読書メモに関するエントリは297件あります。 社会読書 などが関連タグです。 人気エントリには 『「愛のあるセックス」はなぜ必要か(読書メモ:『性と愛の脳科学』) - 道徳的動物日記』などがあります。
  • 「愛のあるセックス」はなぜ必要か(読書メモ:『性と愛の脳科学』) - 道徳的動物日記

    性と愛の脳科学 新たな愛の物語 作者:ラリー・ヤング,ブライアン・アレグザンダー 発売日: 2015/12/09 メディア: 単行本 この本の概要については先日の記事でさくっと触れているので、いきなり本題から*1。 この本でまず面白かったのが、第4章から第6章にかけて、女性と男性が異性に対してそれぞれに抱く愛情の質の違いを分析するところだ。 第4章の「母性を生む回路」では、自分が産んだ子供を世話したいと母親が思う感情、つまり「母性愛」の存在が脳科学の観点から説明される。端的にいえば、母性愛とはプロラクチンとオキシトシンというホルモンによって引き起こされる。オキシトシンが母親に与える影響の具体例は、以下のようなものである。 人の母親が赤ん坊を胸に抱いてやる時、母親は赤ん坊の顔と目を見つめ、赤ん坊もしばしば、母親の顔を見つめ返す。母親は赤ん坊の泣き声や、赤ん坊の声に耳を傾け、自分からも声をかけ

      「愛のあるセックス」はなぜ必要か(読書メモ:『性と愛の脳科学』) - 道徳的動物日記
    • 「非モテ」は「モテないからつらい」、ではない?(読書メモ:『「非モテ」からはじめる男性学』) - 道徳的動物日記

      「非モテ」からはじめる男性学 (集英社新書) 作者:西井開 集英社 Amazon 第一章で提示される、本書のねらいは以下の通り。 ……登場してから二〇年以上もの間、「非モテ」論は主にネットを中心として議論と考察が繰り返されてきた。その蓄積に敬意を払うと同時に、私は「非モテ」論が限界に立たされているとも感じている。それは、これまで見てきた「非モテ」論の多くが「モテない」こと、つまり恋人がいないことや女性から好意を向けられないことが問題の核心であるという前提に立っているという点にある。 (…中略…) 果たして本当に「非モテ」男性はモテないから苦しいのだろうか。時に暴力にまで走ってしまうほどの苦悩の説明を「モテない」という状況にだけ求めてしまっていいのだろうか。本書で問おうとするのはここである。 ところで杉田[俊介]は『非モテの品格』の中で、性愛的挫折がトラウマのように残り続ける原因として、非正

        「非モテ」は「モテないからつらい」、ではない?(読書メモ:『「非モテ」からはじめる男性学』) - 道徳的動物日記
      • 「世の中の理不尽さ」や「不都合な真実」を強調して、それでどうするの?(読書メモ:『ただしさに殺されないために』) - 道徳的動物日記

        ただしさに殺されないために~声なき者への社会論 作者:御田寺圭 大和書房 Amazon いま執筆を進めている「反ポリコレ本」の参考になるかと思って『ただしさに殺されないために〜声なき者への社会論』を読んでいるけれど、案の定、まったく面白くない。 Amazonレビューにもある通り、「身もふたもない現実」や「不都合な真実」、世の中に存在する残酷さや不条理さを指摘するだけであり、その現実や不条理さについて社会はどう向き合うべきか、個人はどうやって対処するべきか、といった前向きな提言や解決策はほぼない*1。 さらに言うと、この本のなかで提示されている「現実」や「真実」は実に恣意的に選択されている。たとえば、昨今では男性に比べて女性だけが解放されたり社会的に尊重されていたりすることを何度も取り上げて、そのことが(弱者である)男性に対してもたらす苦痛や苦悩や理不尽さといったものが繰り返し強調されるが、

          「世の中の理不尽さ」や「不都合な真実」を強調して、それでどうするの?(読書メモ:『ただしさに殺されないために』) - 道徳的動物日記
        • "意図に基づいた愛"を実践する方法(読書メモ:『How to Not Die Alone(独身のまま死なないために)』) - 道徳的動物日記

          How to Not Die Alone: The Surprising Science That Will Help You Find Love (English Edition) 作者:Ury, Logan Piatkus Amazon 久しぶりに洋書の紹介。 本書のタイトルは How to Not Die Alone: The Surprising Science That Will Help You Find Love (『独身のまま死なないために:愛を探すための驚きの科学』)。副題に"科学"という単語が含まれている通り、著者のローガン・ウライは行動科学者。 ハーバードで心理学を学び、Google社で行動経済学者のダン・アリエリーとチームを組んで研究した(その研究の成果は『予想どおりに不合理』に取り入れられている)後に、「自分がこれまでに学んできた行動科学のツールを恋愛関係にも応用

            "意図に基づいた愛"を実践する方法(読書メモ:『How to Not Die Alone(独身のまま死なないために)』) - 道徳的動物日記
          • 読書メモ:『現代思想入門』 - 道徳的動物日記

            現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon 大学生から大学院一年生の頃までのわたしはいっちょまえに「哲学」や「思想」に対する興味を抱いており、哲学書そのものにチャレンジすることはほとんどなかったが、様々な入門書は読み漁っていた。現代思想については難波江和英と内田樹による『現代思想のパフォーマンス』でなされていた紹介をもっとも印象深く覚えており、次点が内田樹の『寝ながら学べる構造主義』や竹田青嗣の『現代思想の冒険』。個別の思想家についてはちくま新書の『〜入門』やNHK出版の『シリーズ 哲学のエッセンス』を読んでいたが、とくに後者についてはあれだけ何冊も読んだのに一ミリも記憶が残っていない。そして、修士論文を書くために英語圏の倫理学や政治哲学の本をメインに読むようになってからは現代思想に対する興味はすっかり薄れて、以降ほとんど触れなくなってしまった。 千葉雅也による

              読書メモ:『現代思想入門』 - 道徳的動物日記
            • 「だれを好きになるか」を批判の対象にしていいのか?(読書メモ:『すごい哲学 世界最先端の研究が教える』 - 道徳的動物日記

              世界最先端の研究が教える すごい哲学 総合法令出版 Amazon 献本してもらったので読んだ。十数人以上の若手日本人哲学者が「サステナブルなファッションを選ぶにはどうしたらいいか?」や「小説を読むことで人はやさしくなれるのか?」といった具体的かつ詳細なトピックについて、(主に海外の)最新論文を紹介しつつ3〜5ページで短く論じる、という本。 全体的に執筆者たちは自分の書いているトピックについて距離がとれており、冷静であっさりした文体が多い。「まえがき」では「少し変わった哲学の入門書」とされているが、哲学の考え方や方法を体系的に学べる教科書といったものでもない。全体的なとりとめのなさから、「哲学・倫理学の与太話集」といった表現のほうが合っている気もする。 とくにわたし自身の生活や人生経験に関わるものとして興味のあるトピックを挙げると、「マッチングアプリで好みでない人のタイプを書くのは差別か?」

                「だれを好きになるか」を批判の対象にしていいのか?(読書メモ:『すごい哲学 世界最先端の研究が教える』 - 道徳的動物日記
              • フェミニズムの「むずかしさ」に向き合う(読書メモ:『むずかしい女性が変えてきた:あたらしいフェミニズム史』) - 道徳的動物日記

                むずかしい女性が変えてきた――あたらしいフェミニズム史 作者:ヘレン・ルイス みすず書房 Amazon 出版社による紹介は下記の通り。 女性が劣位に置かれている状況を変えてきた女性のなかには、品行方正ではない者がいた。危険な思想に傾く者も、暴力に訴える者さえもいた。 たとえばキャロライン・ノートン。19世紀に困難な離婚裁判を戦い抜いて貴重な前例をつくった人物だが、「女性は生まれながらにして男性に劣る」と書き残した。たとえばサフラジェットたち。女性の参政権獲得に欠かせない存在だったが、放火や爆破などのテロ行為に及ぶこともあった。たとえばマリー・ストープス。避妊の普及に尽力し多産に悩む多くの女性を救った彼女は、優生思想への関心を隠さなかった。 しかしだからといって、その功績をなかったことにしてはいけない。逆に功績があるからといって、問題をなかったことにしてはいけない。歴史は、長所も短所もある一

                  フェミニズムの「むずかしさ」に向き合う(読書メモ:『むずかしい女性が変えてきた:あたらしいフェミニズム史』) - 道徳的動物日記
                • 市場原理ってなんですか?(ウェンディ・ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか』読書メモ) - 清く正しく小賢しく

                  今回紹介するのはこちら。 ウェンディ・ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか 新自由主義の見えざる攻撃』 いかにして民主主義は失われていくのか――新自由主義の見えざる攻撃 作者:ウェンディ・ブラウン みすず書房 Amazon 本書の存在は前から知っていたが、前回紹介した論文でヒースが新自由主義批判本の例として紹介していたため、重い腰を上げて読んでみることにした。 kozakashiku.hatenablog.com と言っても、もともと苦手なタイプの本なので、メモをとりながら読めたのは第一部(1~3章)と終章だけで、具体的な事例を扱っている第二部についてはほとんど論評できない*1。読んだ部分にしても、正直半分くらいは何を言ってるのかよく分からなかった。が、ここではとりあえず力の限り頑張ってみたい。 新自由主義は「お金」の問題ではない 競争=市場原理? 競争それ自体の評価 感想 新自

                    市場原理ってなんですか?(ウェンディ・ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか』読書メモ) - 清く正しく小賢しく
                  • 読書メモ:『なぜ美を気にかけるのか :感性的生活からの哲学入門』&『近代美学入門』 - 道徳的動物日記

                    なぜ美を気にかけるのか: 感性的生活からの哲学入門 作者:ドミニク・マカイヴァー・ロペス,ベンス・ナナイ,ニック・リグル 勁草書房 Amazon 『なぜ美を気にかけるのか』は美学の入門書でもあるが、そのなかでも「美的価値」や「美的感性」「美的生活」の問題を扱っており、「優れた芸術の定義とは何か」といったトピックではなくタイトル通り「なぜ美を気にかけるのか」という問題……なぜわたしたちは服や髪型のお洒落さ/ダサさや食事の美味しさ/不味さを気にしたり、聴く音楽や視聴する動画について自分なりの選択を行おうとしたりしているか、といったトピックを扱っている。ここでいう「美」はかなり広い範囲の物事を指していること……「 "美"といえるのは素晴らしい芸術のみである」といったエリート主義を排して、どんな人でも日常的に様々なタイミングで様々な領域の「美」を気にかけている、というスタンスで各人が論じていること

                      読書メモ:『なぜ美を気にかけるのか :感性的生活からの哲学入門』&『近代美学入門』 - 道徳的動物日記
                    • Obsidian読書メモのすゝめ - Qiita

                      どんな記事? Obsidianを使った個人的読書メモの残し方について紹介しています。 仕事関係で読んだ本については簡単にメモを残すようにしているのですが、いろんなツールを使った結果最終的にObsidianに落ち着いたので、自分の使い方を簡単に紹介しようと思います。 サンプル こんな感じでまとめてます。 読了日は結構つけ忘れるので適当なことが多いです。 メモり方 BookSearchプラグインを使ってファイル作成 まず本を読み始めたタイミングで、BookSearchを使ってファイルを作成します。 BookSearchプラグインのインストール方法については、以下公式Githubを参考にしてください。 今回は仮に今読んでいる『科学的根拠に基づく最高の勉強法』の読書メモを残していきます。 BookSearchとテンプレートを使えば簡単に以下のようなファイルが作成されます。

                        Obsidian読書メモのすゝめ - Qiita
                      • インセンティブから目を逸らして社会を語るな(読書メモ:『自己責任の時代:その先に構想する、支えあう福祉国家』) - 道徳的動物日記

                        自己責任の時代――その先に構想する、支えあう福祉国家 作者:ヤシャ・モンク みすず書房 Amazon タイトルが想像できるように、近年に蔓延している(とされる)、いわゆる「自己責任論」を批判する本。 また、著者のヤシャ・モンクの教師のひとりがマイケル・サンデルであるらしく、「謝辞」でも真っ先にサンデルの名前が挙げられている。 そして、この本の内容も、ベストセラーになったサンデルの『実力も運のうち』とかなり近い。あちらは「能力主義」を批判する本であったが、かなりの部分までは「自己責任論」批判と重なるものであった。主に批判する思想家がジョン・ロールズであるところも似ている(サンデルはフリードヒ・ハイエクも強めに批判していたのに対してモンクは運の平等主義者を批判しているところに違いはあるが)。政治家などの発した世俗的な言葉を引きながら「最近ではこんな風潮があります」と紹介しつつ、ロールズなどの思

                          インセンティブから目を逸らして社会を語るな(読書メモ:『自己責任の時代:その先に構想する、支えあう福祉国家』) - 道徳的動物日記
                        • リベラリズムにとって「手続き」と「平等」が大切な理由(読書メモ:『リベラリズム:リベラルな平等主義を擁護して』) - 道徳的動物日記

                          リベラリズム: リベラルな平等主義を擁護して 作者:ポール・ケリー 新評論 Amazon ジョン・ロールズなどの特定の思想家の解説本や思想史の本ではなくリベラリズムの「理論」への入門書が数少ないことには先日にも言及したが、今月の上旬にめでたく邦訳が出版されたポール・ケリーの『リベラリズム:リベラルな平等主義を擁護して』は現代の英米政治哲学におけるリベラリズム理論へとしっかり入門させてくれる、稀有な本だ*1。 本書でとくに中心的になるのが、ジョン・ロールズに由来する「政治的リベラリズム」と、ロナルド・ドゥオーキンなどに代表される「リベラルな平等主義」である。 …私は、本書の主題はリベラリズムと呼びうる多様なアプローチのうちの一つであるとだけ主張する。私は、規範的政治理論としてのリベラリズム、もっと正確には、政治的リベラリズムと呼ばれうるものを扱う。政治的リベラリズムとは、もっと広いリベラルな

                            リベラリズムにとって「手続き」と「平等」が大切な理由(読書メモ:『リベラリズム:リベラルな平等主義を擁護して』) - 道徳的動物日記
                          • 労働者のエートスとエリートのエートス(読書メモ:『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々①』) - 道徳的動物日記

                            アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体 (集英社学芸単行本) 作者:ジョーン・C・ウィリアムズ 発売日: 2017/10/27 メディア: Kindle版 2016年の大統領選では多くの人がヒラリー・クリントンの勝利を確信していたが、実際にはドナルド・トランプが勝利することとなった。それをきっかけに、「リベラルなエリートは世の中を読み違えていたぞ」とか「メディアや知識人は人種的マイノリティや性的マイノリティにばかり注目して、マジョリティである労働者に目を向けていなかったのだ」という問題意識がにわかに湧き上がり、それについて語る様々な記事や本が矢継ぎ早に登場することになったものだ*1。そのなかでも『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人』や『壁の向こうの住人たち:アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』は

                              労働者のエートスとエリートのエートス(読書メモ:『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々①』) - 道徳的動物日記
                            • 芸術家やリベラルが不倫をしやすい理由(読書メモ:『もっと!愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』) - 道徳的動物日記

                              もっと! : 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学 作者:ダニエル・Z・リーバーマン,マイケル・E・ロング 発売日: 2020/10/02 メディア: 単行本 研究者らが発見したのは、ドーパミンの本質は快楽ではまったくないという事実だった。ドーパミンは、それよりもはるかに影響の大きい感情を生み出している。これから紹介するように、ドーパミンに対する理解こそが、さまざまな領域での人類の努力を説明し、さらには予測するための鍵を握っているのだ。 その領域は、目をみはるほどに広い。たとえば、芸術、文学、音楽の創造。成功の追求。新世界や自然の法則の発見。神をめぐる思考。そして、恋もそのひとつだ。 (p.14) このシンプルな概念は、大昔からある疑問ーー愛はなぜ色褪せるのかという疑問を化学的に説明している。私たちの脳は予想外のものを希求し、ひいては未来に、あらゆるエキサイティングな可能性

                                芸術家やリベラルが不倫をしやすい理由(読書メモ:『もっと!愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』) - 道徳的動物日記
                              • 読書メモをScrapboxに残していくために構築した仕組みとワークフロー

                                MediaMarkerがサービス停止して以来、読書メモをどこに残すべきかというのが個人的に大きな問題でした。 蔵書管理はブクログで行っているのですが、ここに常時読書メモを残すというのはどうもピンとこない。アプリを起動すればメモは残せるんだけど、ここに残すとそれはそれで後々めんどくさい。時にはスクショや紙の本を撮影した写真も貼り付けたいわけです。 以前であれば、MediaMarkerで読書メモを残す→Evernoteに自動で出力される→その上にいろんなものを乗っけて読書メモ完成!って流れだったのですが、ブクログで読書メモを残してもそれをほかに連携するすべがない。 ブクログに登録した書籍情報をRSS経由でEvernoteに登録していたのですが、最近ブクログのRSSの挙動がおかしい・・。 ということで、読書メモはブクログとは別のところに残すが良いだろうということで、Scrapboxを使えないかと

                                  読書メモをScrapboxに残していくために構築した仕組みとワークフロー
                                • 小田光雄 逝去のお知らせ - 出版・読書メモランダム

                                  小田光雄は、2024年6月8日、病気のため永眠しました。享年73。葬儀は近親者のみにて執り行いました。 戦後社会論をライフワークとした小田光雄の出発点は『〈郊外〉の誕生と死』であり、その延長線上で、出版・古書・図書館など多岐にわたる分野を論じ、多くの著書を残しました。 また、書店や出版社パピルスを経営し、自ら翻訳も手がけました。主な訳書に、エミール・ゾラ「ルーゴン=マッカール叢書」の『大地』があります。 2019年には『古本屋散策』で第29回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞いたしました。 故人が書き残した原稿があるため、本ブログはしばらくの間、更新を続けます。 皆様には生前のご厚誼に心から感謝いたしますとともに、ここに謹んでお報せ申し上げます。 2024年6月12日 家族一同

                                    小田光雄 逝去のお知らせ - 出版・読書メモランダム
                                  • 「ハッピーエンド」を唱える議論には警戒せよ(『資本主義が嫌いな人のための経済学』読書メモ①) - 道徳的動物日記

                                    資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon まずは「エピローグ」から引用。 若かりしころの私は、社会正義の問題など簡単だと考えていた。世界には二種類の人間がーー根っから利己的な人間と、もっと寛大で思いやりのある人間がいるように思われた。世界に不正や苦難があるのは、利己的なやつが自分の利害にかなうように仕組んだせいなのだ。したがって、この問題の解決法は、もっと思いやりをもつように人々を説得することだ。それがダメなら、思いやりのある人が政治権力を手にできると保証することだ。そのうえ、例の「見えざる手」のレトリックのせいで、資本主義とは、利己的な人間が自分の利益を増やすためにこしらえたシステムであり、右派の政党がこの作戦にイデオロギーの隠れみのを与えるために存在しているのは明白だと私には思えた。だから反資本主義は、率直な道徳的要請のような気がした。政府は

                                      「ハッピーエンド」を唱える議論には警戒せよ(『資本主義が嫌いな人のための経済学』読書メモ①) - 道徳的動物日記
                                    • 「思いやり」があれば正しいってもんか?(読書メモ:『ケアの倫理と共感』) - 道徳的動物日記

                                      ケアの倫理と共感 作者:マイケル・スロート 勁草書房 Amazon この本は邦訳の発売直後、2021年の年末に当時もらった図書カードで購入済だったのだが積んでいたところ、先日の日本哲学会のワークショップに向けて、『もうひとつの声で』に続いて読んだ、という次第である。……ちなみに原著は10年ほど前、大学院生時代に指導教授と一緒にゼミで読んでいる。しかし例によって内容はさっぱり覚えていなかった。また、この本の内容はなかなか難しく、ゼミで読んだときにはわたしだけでなく指導教授もピンときていないというか微妙な反応をしていた記憶がある。 ケアの倫理ついて書かれた本といっても必ずしもいわゆる「規範倫理学」とか「倫理学理論」とかについて書かれているとは限らず、代表的なところでは『もうひとつの声で』はインタビューに基づく心理学の本であり、規範に関してはかなり曖昧なことしか書かれていなかった。 また、ネル・

                                        「思いやり」があれば正しいってもんか?(読書メモ:『ケアの倫理と共感』) - 道徳的動物日記
                                      • 「共通善」で問題が解決できるなら苦労はしないよ(読書メモ:『実力も運のうち』①) - 道徳的動物日記

                                        実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 「能力主義」に対する批判には、二つのパターンが考えられる。「不徹底な能力主義」に対する批判と、「能力主義」そのものに対する批判だ。 学問的なものにせよインターネットなどにおける世俗的なものにせよ、能力主義に関する昨今の議論でなされている批判の大半は、「不徹底な能力主義」に対する批判である。 この批判は、「能力主義は出自や属性に縛られずに自分の意志と努力と才能で自分の人生を決定するチャンスを人々に与えるのであり、機会の平等を保証して、社会の流動性を高めるものだ」という主張に対して、「実際には能力主義の社会でも人々は出自や属性に縛られており、生まれ落ちた環境や場所によって人々の人生はあらかた決定されている」、という事実を突きつけるものだ。 たとえば、アメリカでは大学受験は階

                                          「共通善」で問題が解決できるなら苦労はしないよ(読書メモ:『実力も運のうち』①) - 道徳的動物日記
                                        • 読書メモ:『J・S・ミルと現代』&『一冊でわかるJ・S・ミル』 - 道徳的動物日記

                                          来週に中公新書の『J・S・ミル』が出版されるし*1、表現の自由論を勉強したり『経済学の倫理学』を読んだりしたことで最近はまたミルに触れる機会が増えてきたので*2、中公新書の予習というか前夜祭的な感じで岩波新書とオックスフォードのVery Short Introductuion (日本ではかつては「一冊でわかる」シリーズとして翻訳されていた)でミルを扱ったものをそれぞれ読んだ次第。 J.S.ミルと現代 (1980年) (岩波新書) Amazon John Stuart Mill: A Very Short Introduction (Very Short Introductions) 作者:Claeys, Gregory Oxford Univ Pr Amazon 前者は1980年に出版しされた岩波新書であり、時代的な背景もあってかマルクスがやたらと登場してくるところが特徴的(フロイトなんか

                                            読書メモ:『J・S・ミルと現代』&『一冊でわかるJ・S・ミル』 - 道徳的動物日記
                                          • 日本じゅうがわたしのレベルに落ちたら…(『布団の中から蜂起せよ』読書メモ:追記) - 道徳的動物日記

                                            布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章 作者:高島 鈴 人文書院 Amazon 表題にもなっている、第4章の「布団の中から蜂起せよーー新自由主義と通俗道徳」から引用。著者(高島)が博士後期課程に進学した直後に鬱病になった、というくだり。 本当に博士後期課程最初の一年間、私はほとんど何もしなかった。年度末に提出させられる業績報告書に、「闘病中のため研究を中断している」と一言書いて提出した。本当に、それ以外に書けることがなかったのである。記入欄が半分以上真っ白いままのプリントを見て、さらに落ち込んだ。私はやるべきことができなかった「怠け者」なのではないかと思い、ぼろぼろ泣いて自分を責めた。鬱なんだから仕方ないじゃないか、と頭では理解していたが、この白い紙を見た教授が何を思うのか、想像するだけで恐ろしかった。 これを書いている現在、私は博士後期過程[原文ママ]の二年目を終えよ

                                              日本じゅうがわたしのレベルに落ちたら…(『布団の中から蜂起せよ』読書メモ:追記) - 道徳的動物日記
                                            • AWSの薄い本シリーズ(IAMのマニアックな話など)の読書メモ - 無印吉澤

                                              年明けから IAM 周りの整理をいろいろしなければいけなくなったので、佐々木拓郎さんの「AWSの薄い本」シリーズ2冊を読みました。今回はその読書メモです。 booth.pm booth.pm AWS は普段から使っているので、IAM の基本的な機能はもちろん知っているのですが、最近追加された機能(特にマルチアカウント管理に関する機能)については全然追えてなかったので勉強になりました。 以下、勉強になった点をまとめたメモです。AWS の情報は日々変わっていってしまうので、発行日も併せて記載しました。 AWSの薄い本 IAMのマニアックな話(発行日:2019年9月22日) 第1章 AWSとIAM AWS Organizations は本書の対象外 ポリシー記述の文法的な部分は本書では扱わない。詳細は公式のIAM JSON ポリシーのリファレンス を参照 第2章 IAMの機能 IAMの機能のうち

                                                AWSの薄い本シリーズ(IAMのマニアックな話など)の読書メモ - 無印吉澤
                                              • 資本主義から逃れることはできるか?(できません) - 読書メモ:『資本主義だけ残った』 - 道徳的動物日記

                                                資本主義だけ残った――世界を制するシステムの未来 作者:ブランコ・ミラノヴィッチ みすず書房 Amazon 『資本主義だけ残った』では、アメリカを代表とする「リベラル能力資本主義」と中国を代表とする「政治資本主義」、現代の社会に存在するふたつの形の資本主義を比較しながら、それぞれの成り立ちや特徴や未来予想図が論じられたりする。 先日に紹介した『自由の命運』や、あるいはフランシス・フクヤマの一連の著作など、英語圏で出版される経済史や文明論では「リベラルで民主主義的な社会は、抑圧的な社会や権威主義的な社会より正しくて望ましい」という規範論が前提とされてしまいがちだ*1。そのために中国のような非民主主義的な国家の経済成長やその他の方面での躍進が予測できなかったり、「一過性のものであって、リベラルな民主主義に移行しない限りは崩壊するに決まっている」と願望込みの予測が述べられたりするようになってしま

                                                  資本主義から逃れることはできるか?(できません) - 読書メモ:『資本主義だけ残った』 - 道徳的動物日記
                                                • 能力主義は魅力的である(読書メモ:『実力も運のうち』②) - 道徳的動物日記

                                                  実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 前回の記事で論じたように、サンデルによる能力主義批判の核心は、能力主義が人々の「心情」に与える影響についての議論にある。 生まれ落ちた環境のちがいや才能の有無などの「運」の要素を無いものとする能力主義では、ある人の成功はその人自身の能力と努力と意志が成せるものだと認識されて、ある人の失敗はその人自身の無能さや怠惰さが原因であると認識されてしまう。結果として、能力主義社会の勝者たちは驕りを抱き、敗者のことを侮蔑するようになる。そして、能力主義のロジックを内面化した敗者たちは屈辱を感じるようになるのだ……というのが、サンデルの主張のポイントだ。 とはいえ、『実力も運のうち』という本の面白いところは、批判対象である能力主義のロジックの魅力についても、ある程度までは説明されてい

                                                    能力主義は魅力的である(読書メモ:『実力も運のうち』②) - 道徳的動物日記
                                                  • 左派の望む社会は経済成長に支えられている(ベンジャミン・フリードマン『経済成長とモラル』読書メモ) - 清く正しく小賢しく

                                                    ブログ更新も滞っているので、ちょっとした読書メモを。手元に本がなく、個人的にとった読書メモを頼りに書いているので、間違いや引用の誤字などあったらごめんなさい。 さて今回は、ベンジャミン・フリードマン『経済成長とモラル』東洋経済新報社を紹介する。 経済成長とモラル 作者:ベン・フリードマン 東洋経済新報社 Amazon 著者のベンジャミン・フリードマンはバリバリのマクロ経済学者である(らしい)が、この本は、タイトルからも窺えるように、経済成長を経済学的に説明するのではなく、経済成長が社会に何をもたらすかを語っている*1。 構成を確認すると、最初に経済成長についての総論を、次にアメリカの現代史を辿り、最後に経済成長についての各論を述べる、という感じになっている*2。筆者は、アメリカのパートはまるまる飛ばして、総論と、各論の一部しか読んでいない。 上で、経済成長を経済学的に説明する本ではないと書

                                                      左派の望む社会は経済成長に支えられている(ベンジャミン・フリードマン『経済成長とモラル』読書メモ) - 清く正しく小賢しく
                                                    • 人文書じゃなくてファンブック(読書メモ:『布団の中から蜂起せよ:アナーカ・フェミニズムのための断章』) - 道徳的動物日記

                                                      布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章 作者:高島 鈴 人文書院 Amazon (※ この記事を公開した翌日に、「追記」を公開している。むしろ「追記」のほうがより気合い入れて書いているので、こちらも参照してほしい。) davitrice.hatenadiary.jp まず先に書いておくと、わたしは著者(高島)に対してよい印象を持っていない。というか、明確に嫌いである。 嫌いな理由のひとつは…なんか知らんうちにTwitterでブロックされていたのもきっかけではあるけれど…オンラインで読める著者の文章が中身のないアジテーションにしか思えなかったということだ*1。 それ以上に、2020年3月臨時増刊号の『現代思想』に掲載された千田有紀の文章に対して、2021年11月号の『現代思想』で議論や論証を行うことなく「千田の文章はトランス排除的であり、文章を掲載した『現代思想』は責任を

                                                        人文書じゃなくてファンブック(読書メモ:『布団の中から蜂起せよ:アナーカ・フェミニズムのための断章』) - 道徳的動物日記
                                                      • 「新自由主義」や「自己責任論」は実在するか?(読書メモ:『<学問>の取扱説明書』) - 道徳的動物日記

                                                        改訂第二版〈学問〉の取扱説明書 作者:仲正昌樹 作品社 Amazon 久しぶりに写経っぽい読書メモ。 「新自由主義」という言葉自体にも気をつけなくてはいけません。日本語の「〜主義」、あるいは英語の<〜ism>という言い方はすごく曖昧です。「マルクス主義」とか「ヘーゲル主義」「カント主義」などの個人名が付いている時の「主義」は、その固有名詞と結びついてる特定の思想やイデオロギーに自覚的にコミットしていることを意味するわけですが、「自由主義」とか「社会主義」、あるいは「フェミニズム」になると、その幅がかなり広くなります。むしろ思想傾向とか、基本的な考え方の枠組みくらいのゆるい意味で理解した方がいいかもしれません。「民主主義」だと、そもそも英語にすると、<democracy>で、「主義」「思想」ではなくて、「制度」です。「資本主義 capitalism」も、思想的な意味での「主義」ではありません

                                                          「新自由主義」や「自己責任論」は実在するか?(読書メモ:『<学問>の取扱説明書』) - 道徳的動物日記
                                                        • 読書メモ:『リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで』 - 道徳的動物日記

                                                          リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで (中公新書) 作者:田中拓道 中央公論新社 Amazon ●ワークフェア競争国家 「ワシントン・コンセンサス」は、「底辺への競争」論とともに、新自由主義が世界を席巻しつつあることの象徴として語られてきた。しかし、これらは1990年代以降の先進諸国の実態とは必ずしも対応していない。すでに第1節で見たとおり、先進国の多くでは、税収も公的社会支出も減っておらず、「底辺への競争」は見られないからである。 さらに、「ワシントン・コンセンサス」もそのままあてはまるかどうか疑問である。たしかに、1980年代のアメリカやイギリスでは新自由主義的改革が試みられた。しかし、どちらの国でも「小さな政府」は実現できなかった。国内で格差が広がると、新自由主義への反発が強まり、1990年代に入ると政権交代が起こった。経済界、金融財政エリートの意向だけでは、新自由主

                                                            読書メモ:『リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで』 - 道徳的動物日記
                                                          • 「からかいの政治学」(読書メモ:『増補 女性解放という思想』) - 道徳的動物日記

                                                            増補 女性解放という思想 (ちくま学芸文庫) 作者:江原 由美子 筑摩書房 Amazon 『増補 女性解放という思想』は昨年の12月にネット上の「からかい」に関する記事を書いた後にAmazonのほしいものリストから買ってもらったのだが、最近は「からかい」に関する文章を改めて書いて文学フリマに出品しようかなと考えているところであり、そのために本書に収録されている「からかいの政治学」やその他の文章をいまさらながら読んだ。 とりあえず、「からかい」という行為の特質や悪質さをうまく表現していると思った文章はこちら。 なぜなら、「からかい」という表現には、単なる批判や攻撃、いやがらせにとどまらない固有の質があるからである。たとえばそのことは、「からかわれた」側の女性たちの反応、怒りが、単なる攻撃に対するのとは異なる質を持っていたことからも明らかである。それは、いわば内に鬱屈するような、憤りの捌け口を

                                                              「からかいの政治学」(読書メモ:『増補 女性解放という思想』) - 道徳的動物日記
                                                            • 最近の読書メモの残し方 - ごりゅご.com

                                                              最近の読書メモの残し方 - ごりゅご.com

                                                                最近の読書メモの残し方 - ごりゅご.com
                                                              • 【読書メモ】ライト、ついてますか - radioc@?

                                                                ライト、ついてますか―問題発見の人間学 作者: ドナルド・C・ゴース,G.M.ワインバーグ,木村泉出版社/メーカー: 共立出版発売日: 1987/10/25メディア: 単行本購入: 53人 クリック: 509回この商品を含むブログ (188件) を見る 副題に「問題発見の人間学」とある通り、問題に向き合い、解決に向けて思考を巡らせるための考え方を人間学の側面からやや辛辣なユーモアを交えながら解説している。 初版は1987年の古典的名著だが、出版年は意識して読むほうが良い。Amazonのレビューにもいくつかコメントを見かけたが、まず翻訳がわかりづらい。また、エレベーターや計算機という言葉は現代のそれとはやや違うものとして書かれているので注意が必要。これらは出版された年代を考えれば仕方ない面もある。それを考慮して読めば、問題解決に向けた普遍的な考え方や思考の巡らし方について著者が述べる本質的な

                                                                  【読書メモ】ライト、ついてますか - radioc@?
                                                                • 自由や責任についてどう「解釈」するか?(読書メモ:『そうしないことはありえたか?:自由論入門』) - 道徳的動物日記

                                                                  そうしないことはありえたか?: 自由論入門 作者:高崎将平 青土社 Amazon 「自由意志は存在するか否か」と言われたら、わたしを含めた多くの人が、「事実」に関する問題だと思うだろう。……つまり、自由意志というものがこの世界には「ある」のか「ない」のか、ということについての話であるような印象を受けるのだ。 また、「決定論についての議論」と言われた場合にも、最初に聞いたときには「世界が決定されているか否か」に関する議論であるように思うはずだ。つまり、(ビッグバンが起こったり神様が作ったりしたとかの理由で)この世界が生じた瞬間からこの世界が終わるまでの全時間の全場所に起こる全ての物理的な現象とか存在とかは確定されており、わたしたちの意識も脳みそとか電気信号とかの物理的なものの所産に過ぎないからいつどこでなにを考えたり計画したりどんな行為をするかまでもが決定されているのか、それともそうではない

                                                                    自由や責任についてどう「解釈」するか?(読書メモ:『そうしないことはありえたか?:自由論入門』) - 道徳的動物日記
                                                                  • 能力のある人は、他の人よりも恵まれた暮らしに「値する」のか?(読書メモ:『政治哲学への招待』①) - 道徳的動物日記

                                                                    政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか? 作者:アダム・スウィフト 風行社 Amazon ●格差原理と、不平等の正当化 分配の正義に関する論争において、最大の注目を集めたのは、最後の原理ーーすなわち、格差原理ーーである。不平等は、どのようにして、もっとも恵まれない人の地位を、最大限良くすることに役立ちうるのだろうか。それを理解するわかりやすい方法は、すべての人に同じものを支払うことではないだろうか。ロールズの考えは、もし人々が、実益をもたらすような諸活動において働くよう動機づけられるべきだとすれば、彼らにはインセンティヴが必要かもしれないというお馴染みのものである。そして、議論は次のように進行する。もし経済が、そうでありうるのと同程度に生産的であろうとするならば、何らかの不平等が必要(社会学者は「機能的に」と言うかもしれない)である。不平等がなければ、人々はある仕事を別の仕事

                                                                      能力のある人は、他の人よりも恵まれた暮らしに「値する」のか?(読書メモ:『政治哲学への招待』①) - 道徳的動物日記
                                                                    • 読書メモ:『ヘイト・スピーチという危害』ほか - 道徳的動物日記

                                                                      davitrice.hatenadiary.jp 前回に引き続き、来たる6月13日の「左からのキャンセル・カルチャー論」トークイベントに向けて、表現の自由というトピックに関して復習中*1。 最近に読んだり再読したりした本は以下の通り。 ヘイト・スピーチという危害 作者:ジェレミー・ウォルドロン みすず書房 Amazon 「表現の自由」の明日へ:一人ひとりのために、共存社会のために 作者:志田 陽子 大月書店 Amazon 「表現の自由」入門 作者:ナイジェル・ウォーバートン 岩波書店 Amazon ウォルドロンと志田の本はどちらも初読。前者はアメリカの法哲学者が書いたものでヘイト・スピーチ規制がはっきりと打ち出されているもので、後者は日本の憲法学者が判例や事例を紹介しながら法律上の「表現の自由」の意義と実際の運用について解説したもの。ウォーバートンの本については以前にもこのブログでメモを取

                                                                        読書メモ:『ヘイト・スピーチという危害』ほか - 道徳的動物日記
                                                                      • 「独学」がダメな理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑧) - 道徳的動物日記

                                                                        啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon どうやって正気を取り戻すかを考えるとき、合理的思考の根本的な特徴をおさらいしておくことは役に立つ。時間がかかる。注意力が求められる。言葉に基づいている。意識的。非常に明示的。またワーキングメモリに依存しているせいで活動が妨げられやすい。したがって、論理的思考の中間段階をメモ書きするといった外部化から恩恵を受ける。どうしてこの思考様式がすっかり環境に支配されてしまっているのかは分かりやすい。スピードという単純な問題だ。理性の遅さについて考えてみよう。ある考えや主張はかなり簡単なものでも、説明するのに優に一〇分から一五分はかかる。しかも教室という恵まれた環境の外で、きちんと座って、何かを説明する人に耳を傾けるよう強いられること(リモコンでチャンネルを変えたり、フェイスブックをチェックしたり、話

                                                                          「独学」がダメな理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑧) - 道徳的動物日記
                                                                        • 読書メモ:『エッセンシャルワーカー:社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(田中洋子 編著) - 重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

                                                                          エッセンシャルワーカー 社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか 旬報社 Amazon 本書は、日本のエッセンシャルワーカー、つまり「社会に不可欠な仕事をしている人たち」に焦点を当て、その処遇が悪化してきた実態とその背景を、10を超える業種のケーススタディをもとに論じた一冊。労働社会学などの研究に基づく内容ではあるが、一般向けに分かりやすく書かれている。書名に興味を引かれた人なら、誰でも通して読めると思う。 10名強の研究者・実務者が分担執筆しているが、導入と結論部分、ドイツの事例報告など本書の軸となる部分を、編著者である、ドイツ経済史や労働政策を専門とする田中洋子教授が担当している。14年前、ブログ筆者は、田中先生が筑波大学にて主催するゼミを学部外から履修していた。そのゼミでもまさにエッセンシャルワーカー(当時はその言葉は使っていなかったが)の労働環境について扱っていたので、当時の

                                                                            読書メモ:『エッセンシャルワーカー:社会に不可欠な仕事なのに、なぜ安く使われるのか』(田中洋子 編著) - 重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)
                                                                          • 読書メモ:『ジェンダーの終わり:性とアイデンティティに関する迷信を暴く』(1) - 道徳的動物日記

                                                                            The End of Gender: Debunking the Myths about Sex and Identity in Our Society (English Edition) 作者:Soh, Debra 発売日: 2020/08/04 メディア: Kindle版 裏表紙の賞賛コメントには『人間の本性を考える: 心は「空白の石版」か』の著者でもあるスティーブン・ピンカーや『共感する女脳、システム化する男脳』の著者であるサイモン・バロン・コーエンの名前があるところから、「男女の生物学的な性差に関する本かな」と思って購入してもらったのだが、実際にはトランスジェンダーやノンバイナリー(Xジェンダー)に関する議論が中心の本だった。 また、内容としては明らかに「保守」寄りのものである(そのためか、ヘザー・マクドナルドやベン・シャピロなどの保守論客も裏表紙に名を連ねている)。そして、この本

                                                                              読書メモ:『ジェンダーの終わり:性とアイデンティティに関する迷信を暴く』(1) - 道徳的動物日記
                                                                            • 労働から逃避したところで幸せになれるの?(読書メモ:『隠された奴隷制』) - 道徳的動物日記

                                                                              隠された奴隷制 (集英社新書) 作者:植村邦彦 発売日: 2019/08/23 メディア: Kindle版 本のタイトルはマルクスの『資本論』に出てくるキーワードであり、この本の内容もマルクス主義的なものだ。 第一章〜第三章では、ロックやモンテスキューからはじまってアダム・スミスやヴォルテールやヘーゲルなどの哲学者たちが「奴隷制(黒人奴隷制)」についてどんなことを言っていたか、というあらましが紹介される。そして、第四章では、マルクスの書いた「隠された奴隷制」とは何を意味していたのか、という詳細が明らかにされる。 第五章や第六章では現代社会の労働や資本主義について話が移る。この本の結論としては、一見すると自由で自発的に生きている現代の賃労働者たちが働く環境も、けっきょくは「隠された奴隷制」であるに過ぎない、というものだ。 個人的な感想としては、第四章までには思想史的な面白さがあった一方で、第

                                                                              • フェミニズムの理論をバランスよく(※)紹介する本(読書メモ:『はじめてのフェミニズム』) - 道徳的動物日記

                                                                                はじめてのフェミニズム (ちくまプリマー新書) 作者:デボラ・キャメロン,向井和美 筑摩書房 Amazon 『福祉国家』、『ポピュリズム』、『移民』、『法哲学』に引き続きオックスフォードのVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ第五弾……ではないのだが、同じように英語圏の入門書の邦訳なのでこの流れで紹介。また、今月に発売したばかりの本である*1。 本書の「はじめに」ではフェミニズムの定義の問題について触れられている。 …フェミニズムへの向き合いかたは、なにを「フェミニズム」とするかによって変わってくるということなのです。だれかが「フェミニズム」という言葉を使うとき、意味しているのは次のどれか、あるいは全部かもしれません。 ・理念としてのフェミニズム。かつてマリー・シアー[アメリカの作家、フェミニズム活動家]は「女性は人であるという根源的な考えかた」

                                                                                  フェミニズムの理論をバランスよく(※)紹介する本(読書メモ:『はじめてのフェミニズム』) - 道徳的動物日記
                                                                                • 女性のための進化心理学?:『ジェンダーの終わり』読書メモ(2) - 道徳的動物日記

                                                                                  The End of Gender: Debunking the Myths about Sex and Identity in Our Society (English Edition) 作者:Soh, Debra 発売日: 2020/08/04 メディア: Kindle版 先日の記事で書いたように、『ジェンダーの終わり:性とアイデンティティに関する迷信を暴く』ではトランスジェンダーやノンバイナリーに関する話題がメインとなるが、第7章や第8章ではヘテロセクシャルの女性や男性に関する進化心理学的な議論がなされる。6章以前のセンシティブな議論に比べると他愛のない話題になるのだが、個人的には7章以降の方が面白かった。 第7章では「デートとセックスにおいて女性は男性のように行動しなければならない」という、ジェンダー平等的な規範が「迷信」として批判される。 この章で著者が主張しているのは、「恋愛や

                                                                                    女性のための進化心理学?:『ジェンダーの終わり』読書メモ(2) - 道徳的動物日記

                                                                                  新着記事